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【対談】五十嵐カノア×久常涼<後編>「自分に100%力を入れられる人が強い」トップに共通する思考法

プロサーファーの五十嵐カノアとプロゴルファーの久常涼、世界を股にかけて戦う2人のアスリートが共演。後編では、世界中を転戦するうえでの心得やリラックス方法、先達から受けた影響などについて語ってくれた。

PHOTO/Hiroyuki Okazawa

五十嵐カノア(右) 1997年、米・カリフォルニア州出身。3歳の頃、両親の影響でサーフィンを始め、6歳でローカルコンテストに優勝。最年少9歳でUSAチームに入る。2015年の米ジュニアツアーで年間1位、日本人として初めて2016年のチャンピオンシップツアー参戦資格を獲得、2019年には同ツアーで初優勝。2021年の東京五輪で銀メダル獲得。2022年ISAワールドサーフィンゲームズで優勝。現在世界ランキング17位。5カ国語を操る国際派で、現在ハーバード大学院で学ぶ。180㎝・78㎏。「カノア」はハワイ語で自由という意味。木下グループ所属。

久常涼(左) 2002年、岡山県出身。3歳でゴルフを始め、ジュニア時代から多くの好成績を残す。作陽高校3年時に日本ツアーのQTに挑み1次敗退するもプロ転向。21年は推薦出場をきっかけにABEMAツアーで3勝を挙げ、レギュラーツアーへ。短期間で初シード獲得。22年は欧州ツアーQTに挑戦し7位で出場権をつかむ。23年はフランスオープンで欧州初優勝。ルーキー・オブ・ザ・イヤーも獲得し、今季のPGAツアー出場権を獲得。10月24日現在賞金ランクは87位。来季のシード権を獲得し、PGA初優勝が待たれる。SBSホールディングス所属

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「世界に“ホーム”をたくさん作るといい」

五十嵐 もう1つ聞きたいことは、なぜフルスウィングじゃなくても飛ぶのか。強く振っても当たる場所が悪いと全然飛ばない。僕は筋肉痛になるくらいまで力を入れすぎて振っていたんだけど、2カ月前にゴルフしたとき少しタイミングを変えたら、調子がよくなった。

久常 リラックスするというのはすごく大事だと思います。インパクトのときに力をしっかり押し込めれば、それ以外は自然な状態のままがいい。ゴルフってクラブを使うので、クラブに仕事をさせるのがすごく大事です。それは力を使うだけだと難しいんです。

五十嵐 なるほど、クラブに任せるという感じなんだね。僕も緊張したときはグリップをすごく強く握っちゃうから、1回リセットしてルーズな感覚になるべくするようにするんだけど……。

久常 はい、それはやっぱり大事です。では僕からも質問です。世界中転戦するので、大きな板を自分で何枚も持って行きますよね。

五十嵐 チームで行くことも多いけど、だいたい3つのボードバッグに板を5枚ずつ入れて運ぶ。

久常 ゴルフバッグも30kgの重さをいつも自分で持ち運ぶから、大変です。そういう競技ってあまりないですよね。

五十嵐 大変だよね。慣れはしたけれど。前は、ボードケース3つに加えてゴルフバッグを持って、「やばいヤツ!」って皆に言われたから(笑)。

久常 僕がクラブのほかにサーフボードを持って転戦するようなものだから、すごいです(笑)。


五十嵐 でも、世界を転戦すると家にいない時間が多くて、1年の半分はスーツケースの中のもので暮らしている感じだよ。

久常 僕もそうです。毎週移動があるから憂鬱にもなりますし、毎回お引越ししている感覚です。

五十嵐 そうそう。でも、行く場所が決まってくると、僕は泊まるところもレストランもなるべく同じにしている。それに場所ごとに友達をたくさん作れば、どこでもケアもしてもらえるし、自分が行くときにも「友達に会える!」という嬉しい感じがしてくる。世界中に“ホーム”ができる感じだね。

今年27歳。プロ生活10年を超えたとしみじみする五十嵐カノア。「プロ転向した17歳から多くの友達ができて、どの空港でもピックアップしてもらえるし、家に泊まるときもあるし、世界中にホームがたくさんある感じですごく助かっているよ」。勉強やゴルフでリラックス時間を設けてメリハリをつけているというが、世界の天気と波予想を毎日チェックし、練習のための行き先を考えているのだ

久常 僕は今シーズン(PGA挑戦)1年目だったので、これからカノアさんと同じようにできれば転戦がラクになるかもしれません。

五十嵐 人に可愛がられそうだし大丈夫だよ。PGAで日本人ではない選手とも仲良くしている?

久常 はい、たまにご飯を一緒に行ったりもします。でもどうしても年上の方が多かったりして。最近やっと同年代やジュニア時代から一緒にやっていたような友達が増えてきました。

五十嵐 確かに最初はおじさんばっかりだよね(笑)。

久常 サーフィンだと若い世代のイメージですけど。

五十嵐 僕が17歳のときは皆20代、30代だったから。でもいろいろと勉強にはなる。

久常 はい。特にゴルフは年齢層の広い方々と接することができます。そこは本当にゴルフをやっていてよかったなと思います。

18歳でプロとなり、最初の2年間は日本でプレー、昨年から海外に本格的に行き始めた久常。「日本ではカノアさんと同じように過ごせていたけど、海外には本当に知り合いがいなかったので、全部自分たちで何とか解決しないといけなかった。カノアさんのようにすればこれからはより楽しく海外を回れそうです」。着々と目標をクリアしてきた若武者・久常涼のチャレンジに、今後も大注目だ!

自分にフォーカスしていかないとダメ

五十嵐 印象に残るアドバイスをもらったことはある?

久常 トップ選手の方に、「お前もここまでやってこられているからこそ、自分自身を見失わないように、それを大事にしろよ」という感じのことを言われました。

五十嵐 いいね!

久常 周りは皆すごいから、そればかりを追いかけようとすると、自分がどこにいるかわからなくなるので。

五十嵐 自分に集中すると。

久常 そうです。自分自身を見ること、より究めることが一番大事なことだという話で、なるほどなあと僕も感じました。

五十嵐 そうだね。特にゴルフは、最後は自分に点数をつけてどうだったかというスポーツだから、周りの人と比べることは意味がない。

久常 はい。だからすべて自分にフォーカスしていかないとダメで。サーフィンでもそうですよね。他の選手がいい技を決めても、自分が決めていかないと点数を超えられない。だからこそ、準備をしていくことが必要になります。

五十嵐 そう。難しいけどね。スポーツ選手として、隣にいる人よりよくプレーしたいと思うし、今日はあいつあんなことやってるよと頭の中には入ってくるから。そういえば、ケリー・スレーターって知ってる? 11回世界チャンピオンになった選手で、ゴルフもすごく上手くてスクラッチプレーヤーなんだけど(笑)、彼からも同じようなアドバイスをもらった。人のことを考えてしまうと、自分の100%の力を10%、20%と人にあげてしまうことになる。自分自身に100%の力を入れられる人が強いと。

久常 同じですね。

五十嵐 トップは皆そう言うよ。

久常 カノアさん、もう1つ。ハーバードの大学院で経営学を学びながら競技もされていることがすごいなと。僕はゴルフばかりやってきて、勉強は小学校くらいで卒業しているので(笑)。

五十嵐 ははは。バランスを取っているんです。頭の中がサーフィンだけになると疲れてしまう。最近は夜ご飯を食べている間もその日の練習のことだけでなく次の日のことも考えてしまい、オフにスイッチできてなかった。次の日になっても前日のことを引きずっていて、リセットがない。だからわざとサーフィンと違うこともしたいなと思って。大学院の勉強をしているときはサーフィンのことをまったく考えていなくて、意外とさっぱりする感じ。次の日の練習でも切り替えられて力が入る。

久常 メリハリがつけやすくなったんですね。

五十嵐 最初はそういうつもりじゃなかったんだけど、結果的にバランスができた。

久常 僕は最近、釣りをしたいなと。サーフィンは難しそうだから。溺れそうですし(笑)。

五十嵐 それはいいね。実は僕は来年1月から始まる「TGLツアー」の「ザ・ビー」というカリフォルニアのチームのファーストオーナーなんだ。僕は試合には出ないけど、ミンウー・リーとかパトリック・カントレーがいる。このツアーにも来てほしい。チームは6つくらいあって、タイガーやローリーなどすごいメンバーがやっているので、チャンスがあれば参加して!

久常 僕の目標はもちろん、PGAツアーの優勝ですけど、TGLに行けるのがトップ・オブ・トップのPGA選手でもありますから、1つの目標にして頑張ります。

五十嵐 頑張りましょう! 僕も応援しています。

週刊ゴルフダイジェスト2024年11月12日号より