【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.802「若い選手がゴルフを通じて、人として成長する姿をしっかり見守りたいと思います」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
今年の米LPGAツアーに新たに3人の日本選手が参戦して、女子プロ選手の人生設計も昔と変わったと思いますが、岡本さんはいまの現状についてどう思っていますか。(匿名希望・50歳・HC5)
LPGAツアーが開幕して2戦目のドライブオン選手権で、古江彩佳選手、稲見萌寧選手、畑岡奈紗選手と3人がトップ10に入りました。
PGAツアーも今季からは松山英樹選手に加え、21歳の久常涼選手という若い選手が参戦し、いまのところ出場した試合すべてで予選通過する活躍をしています。
日本の選手たちがそれぞれのツアー最前線で躍動していると思うとワクワクしてきます。
とりわけLPGAは、稲見選手ほか、西郷真央選手と吉田優利選手が新たに加わり、主戦メンバーは総勢9名。米ツアーの中では一大グループを形作るまでになったわけです。
日本選手が世界の舞台で軽やかに活躍する姿が当たり前になったことは心強い限り。
思えばわたしが単身で太平洋を渡ってLPGAツアーに旅立ったのは40年以上も前で、まったくの別世界でした。
以前にお話ししたことがありますが、ある若い選手と話をしていて驚かされたことがありました。何かやりたいことがあるわけでもないので、とりあえずテストを受けてプロゴルファーになってみようと思ったということでした。
聞いたときはちょっと面食らいましたが、動機やいきさつは何であれ、プロとしてトーナメントでプレーしているうちに彼女たちの考え方や姿勢は変わってきます。
プロとして生き残ろうとすれば、頭の中も毎日の行動も変わらざるを得ない。
当然ですが、この世界は甘くはないからです。
アスリートにとってもっとも大事なのは、言うまでもなく自分の体、健康、体力。
最終的には体力的、年齢的な限界が選手生命を左右します。
また結婚して母になるというのは大変な事業で、これはアスリートの運命を大きく左右することになります。
その意味で残念ながら女性の負担は、男性のそれに比べて大きいと言わざるを得ません。
だからと言って不公平だと言いたいわけではありません。
アスリートは男性も女性も人間として自分の人生を考え、自分の思うように道を選択して生きていくことだと思うからです。
ただ、女子プロゴルファーの人生設計そのものが、時代に即して変わったかというとそうは思えません。
どんな女子プロゴルファーも自分の人生設計を立てるはず。
10~20代のうちは誰にもバラ色の夢があり、それに向かって思い切り力を発揮する時期ですが、30代に
なると彼女たちはふと立ち止まって考えます。
それまでの過程と実績をもとに、目標を再設定して少しでも近づけるようもう一度身構え直す。
たとえばアニカ・ソレンスタムは、大学卒業と同時にプロ転向してルーキーイヤーに初勝利すると、翌年3勝を挙げ賞金女王になります。
それから毎年のキャリアを積み上げ27歳で結婚。
その後、やや低調な時期を経てトレーニングで体を改造すると全盛期を迎え、賞金女王に輝くこと8度、メジャー10勝の通算72勝して38歳で引退を表明していまは2児の母にもなりました。
体力を技術が補う面はありますが、体力がなければ使えない技術というのもある。
いわゆる「心・技・体」は、わたしには「体・技・心」の順でしょうか。
頭ではどうすればいいと理解していても、いざ実戦の場面できちんと確実に発揮できるかどうか、それが技術をほんとうに身に付けているかどうかということです。
そうした体・技・心の絶好のコンビネーション「脂の乗っている」時期は、なかなか保てるものではありません。
ちなみに、アニカのあとに活躍したメキシコのロレーナ・オチョア選手は28歳で結婚すると翌年ツアーとは一線を引きました。
現役生活わずか8年の女王には驚かされましたが、人はそれぞれです。
畑岡・古江両選手をはじめ笹生優花選手、渋野日向子選手、勝みなみ選手に西村優菜選手、今季加わった稲見、西郷、吉田の3選手たちは挑戦する目的や経緯も違えば、胸に抱いている夢や目標も違うのでしょう。
彼女たちは今、新しい環境で新たな気持ちでプレーできることへの喜びを感じ、やる気に満ち溢れていると察します。
その彼女たちが、これから徐々にオトナになっていく、そのプロセスを楽しみに見守りたいと思います。
「日々努力を怠らない人って、なぜかステキに見えませんか?」(PHOTO by AYAKO OKAMOTO)
週刊ゴルフダイジェスト2024年2月20日号より
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