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【インタビュー】石川遼<後編>「1番になる確率を周りの人より1%でも上げていく」

ゴルフ界を牽引する石川遼。どのようにしてモチベーションを保ち、成長し続けているのか。後半では、頂点を目指す中での姿勢、挑戦、今後の目標を語ってくれた。

PHOTO/Satoru Abe

石川遼 カシオ所属。1991年埼玉県出身。07年マンシングウェアオープンKBSカップを15歳で制し、翌年プロ入り。09年には18歳で史上最年少賞金王に。13年からはPGAツアーを主戦場にし17年帰国。18、19年はJGTO選手会長も務める。メジャー3勝含むツアー通算18勝

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「頂上への到達の仕方を常に考えています」

――今年33歳になる石川。モチベーションはどうやって保っているのか。常に高いままなのか。

石川 はい、そうですね。ベースになっているのは一番になりたいということ。一瞬でいいから一番になりたいのではなく、一番になる確率を周りの人より1%でも上げていくことにすごくモチベーションを感じます。1位か2位かの争いという、最後の勝負の話というよりは、スタート地点の部分。1年、2年、3年というところで考えたときに1位になる確率が高いゴルファーになりたいと思うんですよ。

――令和に年号が変わるときのインタビューで、「エベレスト(PGAでの勝利)を目指しているけど、富士山に登る装備で行ってしまった。海抜ゼロメートルの世界は、いろいろ言う人だらけですから」と語っていた石川。その印象深い言葉を本人に改めて向けると、豪快に笑った。


石川 ははははは。完全同意です。考えは変わっていない。高い山の上ほど人は少ないですから。その話をしたのは5年くらい前ですから、僕の今の考えやマインドのベースがようやくしっかりしてきた時期。やっぱりアメリカに居た時期は、目が回るくらい周りを見ていたんです。あの人のここを盗みたいとか、そういう目でしか見ていなかった。本当の自分の装備で登ろうと行ったというよりは、現地で登り始めて、ああこの傾斜面で登るときはあれがいいんだとか、登りながら見ていて。でも登り始めたら売っていないんです。

でも、アメリカから帰ってきた後もメジャーに出たりしましたが、そこでもエベレストに登っている人たちの装備、フィジカル面だったり技術面だったりがすごく見えたというか。頂上からの景色は見られていないですけど、以前一緒に歩いていた人たちが何人も頂上に行ったのは見ているんです。

昨年でいうと、ZOZOの3日目、コリン・モリカワと回って、彼は最終日もいいプレーをして優勝しましたけど、彼は一度、全米プロ、全英オープンと頂上の景色を見ている人。その人のベースの装備だったり、技術っていうところを見ることができた。彼は彼の技術や体を駆使して頂上まで登り詰めている。でも、コリンを見たときに、自分の装備も最新のものにアップデートされたという確信があったので。だからよりワクワクした。

今まではとりあえずエベレストに登ってみたいという感じだったんですけど、なるほどこういう人が頂上に行くというのを何度も見てきて、自分も最新のものにアップデートできたので、あとは自分次第というところですね。

「周りの選手から、あれを盗もうこれを盗もう、ということは、もうないというか……それはもう情報として十分見られた」という石川。得てきた新しい技術を深める時期にきたのだろう

――あのセンセーショナルな15歳でのアマチュア優勝を、「フロック」と語る慎ましい石川。30代になった今、そこが自分磨きのステップになったとも語る。

石川 自分の人生で恵まれていたなと思うのは、15歳で勝てたことによって、自ずとエベレストの頂上まで登った人を見る機会があったし、一緒にゴルフをしたあとに頂上に登り詰めた人も見られて。両方見ることができたので、自分もいろいろなところに目が行っちゃったことはあるけど、それも含めてすごくいい経験ができて、必要なものが見えて、今、もう一度日本で自分を作り上げていっているということでしょうね。

「40代後半までバリバリやりたいなと思っています」

――富士山を日本ツアーとすると、そこは今、若手選手で混んでいる。“遼さん”として、どう思っているのだろうか。

石川 本当にモチベーションになります。似たようなところを目指す選手が多いんですね。PGAツアーだったり、メジャーだったり、世界の舞台というところを。タイガー・ウッズの影響もあるし、もちろん英樹がマスターズに勝ったという影響もあると思うんですけど、世界基準という言葉、世界という言葉を口にする選手が非常に増えたなと思います。それも非常にモチベーションになりますよね。

――“遼さん”の影響が大きいという選手も多いと伝えると、「それはうれしいですね」とクールに答える石川。石川自身は、今どこに居るのか。目標は?

石川 目標はエベレストですよ。どこに居るという表現は難しいけれど、富士山だろうが、エベレストだろうが、頂上まで登ることはすごく難しい。ただやっぱり、富士山の頂上まで登りたいと思ったときに、軽装で突っ込んでいって一瞬死にそうになったけど行けた、というよりは、コツコツコツコツ確実に、次に同じ登り方で登っても行けます、という「頂上への到達の仕方」のほうが、僕が目指しているものです。それがエベレストでもできることが、世界最強だと思うので。それってめちゃくちゃ難しいことだと思うし。僕のポテンシャルを考えたとき、飛距離でいうと世界一飛ぶわけではない。世界基準でみると、振ったら平均よりは飛ぶというくらい。でも、世界一飛ぶ選手になりたいわけではないので、それ以外の部分を駆使して、世界の頂上を目指すというゴルフになってくる。すると、世界一飛ぶ人に比べたら、ほかのところで無駄をしていたらいけないので、当然ですけど、ラクな道ではないし、でもそこにモチベーションをめちゃくちゃ感じているのが、正直な現在地です。

――「今年も具体的な目標は決めてない。昨年すごい課題も見つかり、まだまだ改善点があるので。成績面もそうですし、内容の面も昨年よりいい年にしたいです」と語る石川。“遼くん”から“遼さん”になっても、変化をいとわないから進化する。何度でも高い山に登り続ける石川を、しっかりと見ていきたいと思う。

挑戦をやめなければ伸びしろはある。「一番になる確率を周りの人より1%でも上げていくことにすごくモチベーションを感じます」という石川。結果ではなく、そこに向かう過程に楽しみを見い出すから、真のアスリートとして長続きする

週刊ゴルフダイジェスト2024年2月6日号より