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【インタビュー】金谷拓実<前編>どん底の2022年「なんでゴルフをしているんだろう…」

世界を股にかけて戦った金谷拓実の2022年は決して順風満帆ではなかった。挑んでは跳ね返され、どん底に落ちもした。それでも“あきらめない男”は、夢に向かってひた走る。

PHOTO/Tsukasa Kobayashi

「何のためにゴルフをしているんだろう」

金谷拓実の2022年は、ソニーオープンから始まった。常春の舞台で、背中を追う松山英樹のPGAツアー8勝目を遠目に、予選落ちのスタートだった。

その後、中東での3試合を25位、予選落ち、14位で終え、アメリカに戻ってパーマー招待で予選落ちし、WGCデルマッチプレーではベスト16に進出したものの、その後マスターズ、全米プロを含む4試合で予選落ち。そうして一旦日本に帰国した。

1年前に話を聞いたとき金谷には悲壮感が漂っていたと伝えると、

「そうでしたか。でも今年のほうが大変でした。ずーっと予選落ちするから。5月に一旦帰国し、広島でいつも練習させていただいているコース(郷原CC)の支配人に『振りすぎじゃない?』と言われ、『確かに振りすぎかな、自分らしくいかないと』と思いました。でもやっぱり、海外選手についていくためには振らないといけないし、“振りすぎ”に合わせて体を強くしないといつまでたっても前に進まない。春の時点でそう考えられれば、どん底には落ちなかったかもしれません」

“自分らしいゴルフ”とは何だろう。ときに自分らしさはプロをがんじがらめにする。

LIVゴルフは、今のルールでは絶対行かないという。「僕は最初から行くつもりはなかったし、今もそうです。プロになってアメリカで勝ちたい、メジャーで勝ちたい、そういう栄誉があってなんぼだと思っていたから。ある程度実績を残したベテラン選手ならわかるけど、若い選手もけっこう行った。でもそんななか、自分は予選落ちを続けていたから、プロって何だろうって思いました」

6月の日本ツアーは、ツアー選手権11位タイ、ASO飯塚チャレンジドは20位タイ。

「帰国してプレーしていると、当たり前にできる。海外で結果が出なくて、調子が悪いのかなあと思いながらプレーしていたけれど、そういうことではないんだなと感じたり……」

6月末からの欧州連戦、BMWインターナショナル、全英オープン、カズークラシック、ヒーローオープンで連続予選落ち。ここがどん底のピークだった。

「自信もないし、なんで今ヨーロッパにいるんだろう、なんでアメリカに行ってたんだろう、何のためにゴルフをしてるんだろうとまで思っていました。本当はコーンフェリーツアー(米2部)の予選会に挑戦する予定でしたが、いろんな人と相談し、ガレス(・ジョーンズ、JGAナショナルチームヘッドコーチ)も、『一つに絞り、ヨーロッパからまた力を蓄えたほうがいいのでは』と。もちろんPGAツアーに挑戦したい。でも中途半端に終わるわけにはいかない。それで欧州一つに絞りました」

8月に再び帰国し、セガサミーカップで優勝争いの末3位、KBCオーガスタは予選落ちしたが、フジサンケイクラシックは8位タイ。

「いいプレーができたし、日本の3連戦を終えて、メンタルコーチの菅生さんのお墨付きももらった。それでフランスに行って、初日はまあまあでしたが、2日目信じられないくらい曲がるし入らない。翌週のダンヒルはめちゃくちゃ寒くてゴルフにならないし、また何しに来ているんだろうって……」

小さなことから変えていった

世界中を駆け巡りながら、気持ちの浮き沈みを抱える金谷は、すがる糸を探し続けた。

「技術以外のことで考えるほうが多かったです。いつもと食べているものが違うからダメなのかとか、小さなところから潰していこうと思い、たくさんお米を持っていったり味噌汁を食べるようにしたり。遠征先のホテルでも、前は英語のスポーツ番組ばかり見ていたけど、あえて日本語が流れるユーチューブを見たり音楽を聴いたり。日本と同じ感覚で臨むには、同じような生活にしたらいいのではと、小さなことばかり考えてました」

成績が出ないとプランは狂う。2次もしくは最終から参戦予定だった欧州のQTだが、その翌週、1次に出場せねばならなくなった。

「気分が沈んでいました。QTも通る気がしないし、他の会場のカットラインはそれなりに高かったから、ダメだったらすぐに日本に帰ってやろうと。でもここで帰ったら絶対こっちにもう戻らないんだろうなという感じだった」

こういうときの金谷は強い。細い糸でも見つけて絶対離さないのも“金谷らしさ”なのだ。

「1次はマンチェスターの会場で調子も天気も悪いしボロボロでしたけど、たまたま通ったんです。そうして帰国したZOZOでもパッとせず、日本オープンです」

ここで金谷は大学、ナショナルチームの先輩である比嘉一貴、後輩である蟬川泰果らと優勝争いを繰り広げる。

「日本オープンは、蟬川がとにかくすごかった。でも、この頃から手ごたえが出てきた。日本オープンが終わって、ヨーロッパの2次QTを通過し、最終QTの6日間は2日目にバタバタしたけれどほかはよかった。全試合に出場できるカテゴリーには入れなかったけれど、そのあとのオーストラリアでの2戦も手ごたえはあったし。少し吹っ切れたというか、この感じでまだプレーしたいなと今は前向きになっています」と笑った。

“手ごたえ”は最高の薬だ。それは、自分でしか手に入れられない。

>>後編へつづく

週刊ゴルフダイジェスト2023年1月10・17日合併号より