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【目澤秀憲の目からウロコ】里大輔編①「“クラブを主体にする”という発想がない人が多い」

目澤秀憲コーチが、異業種からゴルフのヒントを得る連載「目澤秀憲の目からウロコ」。今回話を聞きに行ったのは、スポーツにおける体の動きを、徹底的に「言語化」して、プレーヤーの感覚に依存しない指導で注目されている里大輔氏。里氏の目にゴルファーはどう映るのか。

TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Hiroaki Arihara

里大輔 さと・だいすけ。個人・チームの「パフォーマンス」や、競技の「技術」を覆っている暗黙知を言語化し、勝利条件の設計を行う。現在、20競技のチームで活動を行っている
目澤秀憲 ゴルフ界の最先端を知り尽くすコーチ。現在は河本力、金子駆大、永峰咲希、阿部未悠などを教える

自分のパフォーマンスを
どう分析するか

―― 里さんは、パフォーマンスアーキテクトとして、陸上をはじめ、ラグビー、バレーボール、サッカーなど多岐にわたるプレーヤーを指導しています。その際に大事にしているという、「パフォーマンスチューブ理論」について、最初に少しだけ説明していただきたいのですが。

 運動のパフォーマンスというのは、基本的にファンデーション、アビリティ(能力)、テクニック(技術力)、スキル(判断力)の4つの要素がチューブ状に積み重なって成り立っているというのがパフォーマンスチューブの考え方です。

目澤 ゴルフで言うと、アビリティというのは、たとえばクラブをどれだけ速く振れるかということですね。テクニックは正しい軌道で振れるかどうか。そしてスキルは、必要に応じて弾道を思い通りにコントロールできる能力といったところでしょうか。


里 そうですね。アビリティの下にはさらにファンデーションの階層があって、これはその運動を行うための柔軟性、可動性、安定性が担保されているかどうかということです。全部で4つの階層があるということになります。

目澤 その4つが大体同じ大きさで重なっていると、理想的なパフォーマンスになるということですか?

 あくまでも理想はそうです。でも、仮にそうなっていなくても自分で把握できていたらいいんです。いい動きができたとしたら、今のは何がよかったのか、判断がよかったのか、テクニックがよかったのか、あるいはマネジメントがよかったのかという感じで自分のチューブの形を意識しながら分析できればいいということですね。逆にミスの場合も、たとえば、後半で悪い動きが出たときに、テクニックなのか、いいプレーを維持する体力がなかったのか、そもそもやりたい動きに対する可動性や安定性は十分だったのか、といった感じで考えていくわけです。

目澤 ゴルファーで言うと、土台となるファンデーション、アビリティが十分でも、テクニックのところがギュッと小さくなっている人が多い感じがします。そのテクニックの枠をどうやって拡大していくかというのが、プロもそうですが、アマチュアにはとくに必要な課題だと思いますね。里さんは、ゴルファーにも指導する立場で関わりがあって、最近になってご自身でもゴルフを始められたということですが、ゴルフのパフォーマンスについては、どう考えていますか?

 ゴルフのテクニックの部分に関して言うと、運動の本質となる原理原則の部分と、それに付随する枝葉の部分がかなりはっきり分かれちゃうなっていうふうに思っているんですね。それはやっぱり道具を使うからで、クラブがどう動くかというのが主体で、人間はそれを動かすモーターでしかないというか。ところが、打ちっ放しなんかで練習している人を観察していると、皆さんクラブを主体にするっていう発想が多分ほとんどなくて、自分の骨と肉をどう動かすかという(笑)。そこにクラブが介在しているというのがなくて、「この手であのボールを叩く」みたいな感じを受けます。

目澤 ゴルフの世界は「トラックマン」によって、枝葉の部分で悩む人が多くなってしまった感じがします。データで、たとえばクラブがカットに入っていたとしたら、対処法としては逆にドロー気味に入れればいい。プロならそれは簡単にできちゃうんですね。でもそれが試合でできるかどうか、もっと言うとそれが原理原則的な根本原因にアプローチしているかどうか、見極める必要がありますよね。

ミスの根本原因にどうアプローチするか

パフォーマンスチューブ理論で考えると、たとえばアビリティ(強さ、速さ)が足りていないのに、高度なテクニックを実践しようとしても上手くいかないし、体に過度な負荷が生じる可能性(ケガのリスク)もある。里氏によると、プレーヤーなら誰でも、上手くいかないことで悩むが、原因を正確に把握しようとする人は、実はあまり多くないという

「プレーヤーとコーチは結果のみでつながっている」
1試合ごとの成績やトラックマンなどの計測データに惑わされずに、スウィングの原理原則の部分で技術の「幹」を太くしていくことが、本来は何より優先される。しかし、「選手もシーズンオフはそういう、将来を見据えた新しいことにもチャレンジできるマインドになっていることが多いんですが、シーズンが始まってしまうとやっぱり目先の試合結果が気になってしまう。里さんの話を聞いていて、こういう理由でこれをやってほしいということを、納得ずくで取り組ませること、それを最後には必ず結果につなげるのがコーチの役割だと、改めて感じました」(目澤)

月刊ゴルフダイジェスト2025年11月号より