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畑岡奈紗、ミケルソン。ショット名手の共通点は「ベタ足」だった

TEXT/Kenji Oba PHOTO/Norio Tsuburaoka、Tadashi Anezaki、Takahiro Masuda THANKS/アコーディア・ガーデン志津

畑岡奈紗やフィル・ミケルソンなど、アイアンでビシビシとピンをさしてくるショット名手に共通するのは「ベタ足」。なぜベタ足がいいのか、どうすれば正しいベタ足を身につけられるのか。専門家にじっくり聞いてみた。

右足の粘りが正確なインパクトを生む

解説/白木仁(筑波大学 体育系教授)

JGA(日本ゴルフ協会)ナショナルチームで長くフィジカルコーチを務める。トレーナーとして工藤公康、片山晋呉ら多くのトップアスリートを支えた経験をもつ

「ピンを狙うコントロールショットは“ベタ足”がいいんです」

そう語るのはナショナルチームのフィジカルコーチも務めた筑波大の白木仁教授だ。そもそもベタ足とはどんな動きなのか? どんなスポーツで使われているのか?

「ベタ足の代表といえば相撲です。足裏を浮かせない『すり足』は基本動作とされ、基底面積を大きくして倒れにくくさせています。同時に足裏全体で地面をとらえることで『押し出し』などの強力なパワーも生み出します」

相撲に有効なのは理解できるとして、ゴルフスウィングにはどのような効果があるのか? 白木氏によれば、まず挙げられるのがスウィング全体の安定性だ。具体的にはスウィング軸の左へのズレを抑えられる、また重心の上下動も抑えられることで、正確なインパクトにつながるという。

「重心が左にズレなければ、ダウンスウィングで骨盤は左回転します。インパクトでは右骨盤でボールを押すことができるので、厚いインパクトができるのです」

その動きのお手本が全米女子OPで2位となった畑岡奈紗選手だ。畑岡自身も自身のスウィングについて「インパクトまで右足は浮かせないイメージです」と語っている。さらにベタ足は最新のスウィング理論にも通じる、と白木氏は語る。

「インパクト時に左足を突っ張り、地面反力を得ると体が右に倒れるような動きになります。この動きを受け止めるのが右足の粘り、つまりベタ足です。そうなるとさらに右腰で強く押せるインパクトが可能になります」 

マスターズを制した松山英樹の右足の粘りもアイアンのキレにつながっていると白木氏は分析するが、ベタ足を実践しているのは女子プロが圧倒的に多い。白木氏は、「ベタ足はある程度の柔軟性が必要で、無理にやると股関節やひざ、足首を痛めるリスクもあります。すり足を始め、股割りや鉄砲などの相撲の稽古は、ゴルファーにとってもいいトレーニングになるんです」

ベタ足=右足を動かさない
ではない

解説/横田英治

ツアー経験に基づく、理論的なアドバイスに定評がある。ドライバーからパターまで試打経験も豊富で最新のスウィング理論にも精通。女子プロの岸部桃子を指導している

スウィングに詳しい横田英治プロは、ベタ足についてどう考えているのか。

「まず大事なのは、ベタ足の誤解を解くことです。というのもベタ足というと足裏をベタッと接地させたまま、動かさないと考えるゴルファーがほとんどだからです。ですが、これは静的ベタ足と呼べるニセモノです。プロが使う本物のベタ足は、動的ベタ足といって積極的に足を使いながら粘れる、踏ん張れるベタ足なんです」

静的ベタ足では当然、手打ちになりやすく、腰やひざも痛めかねない。ベタ足と言っても足裏は全部つけなくていいのだ。さらに違うのが、右かかとの上がり方。右足裏の粘りが限界にくれば、かかとは自然に上がっていくのだが、「静的ベタ足は右かかとが外回転します。すると右ひざが前に出て股が開くはずです。これに対しプロや上級者は右ベタ足で内側に粘りながら、最後にかかとが上がっていきます。内回転のイメージで、フィニッシュでは両方の内太ももがピタリとつきます」

本物のベタ足ができるようになると驚くべき効果が4つ生まれる。(1)体が左に突っ込まなくなること。(2)クラブがインサイドから下りてくること。(3)ヘッドの入射角が緩やかになること。これら3つの効果が組み合わさって、(4)インパクトが安定、厚くなると同時に、力の方向が整い、いわゆるライン出しのような動きが簡単にできるようになるという。

ベタ足で右足が粘れることで、右ひざが内側に絞られ、ボールを狙った方向に押し出せるようになる。これがライン出し、つまりコントロールショットの精度を高める大きな要因なのだ。

静的ベタ足=足裏全体が接地
手打ちを招きやすい

足裏全体を地面につけたまま振ってしまうと、体が回転しないため、手打ちになりやすく、腰やひざを痛める原因にもなる。フォローでは右かかとが外回転して右ひざが前に出る形になりやすい

動的ベタ足=右足の内側で粘る
下半身の力を生かせる

正しいベタ足は、右足の内側が粘りながらインパクトを迎える。下半身でしっかりと踏ん張ることで、下半身主導の動きになり、手打ちを防ぐことができる。フォローでは右太ももが左太ももにくっついていく

<ベタ足の効果1>
体が突っ込まない

ベタ足ができると体の軸は安定する。とくに切り返しからダウンスウィングにかけ、体が左へ突っ込まなくなるのが大きい。アマチュアに多い体が左に流れるスウィングは、ベタ足を意識するだけで修正できるという

<ベタ足の効果2>
インサイドから下ろせる

右足の粘りができると軸が右に保たれる。その結果、左腰が回りやすくなり、クラブがインサイドから下ろせる。アマチュアに多いアウトサイドイン軌道はベタ足ができない、ニセベタ足が大きな原因なのだ

<ベタ足の効果3>
ヘッドの入射角が緩やかになる

体が左に突っ込まず、クラブがインサイドから下りてくると、インパクトでのヘッドの入射角が緩やかになる。いわゆる低く長いインパクトが可能になるのだ。ボールを長く強く押すことができる

<ベタ足の効果4>
インパクトが安定し方向性アップ

ベタ足の最大の効果はインパクトが安定し、その結果、方向性が整うということだ。右足を粘っていく動きがターゲットに向かうため、ラインを出しやすくなる。右かかとが外回転するほど、方向性は悪くなってしまう

理想的なベタ足のお手本はミケルソン

3つのドリルで
ベタ足をマスター!

最後に、ベタ足をマスターするためのドリルを教えてもらった。最初はフットドリルと呼ばれるものでクラブを持たない動きだ。

「クラブを振ると、どうしても意識が上半身にいきます。まずはクラブを持たず、下半身の動きをしっかり身につけましょう。切り返しから右足裏を内側に粘り、徐々にかかとが上がっていく動きを繰り返し覚えます」

写真で見ると単純な動きに見えるが、やってみるとかなりきつい。1スウィング10秒など時間をかけるとさらにハードだ。この動きでベタ足の感覚を身につける。

2つ目のドリルは、斜めに置いたクラブを跨いで打つ練習(下写真参照)だ。

「この状態でしっかりボールを打つには、ベタ足が絶対条件です。なぜならかかとが浮き、右ひざが前に出ると、下に置いたクラブが動いてしまうからです。クラブを動かさないように振るだけで、ベタ足の粘りが体感できます」

フルショットではなく、8Iか9I、PWで普段の5~6割程度の距離を打つつもりでいい。

最後のドリルは右手がシャフトにかかるくらい短く持って打つ。

「超短く持つので普通に振るとボールに届きませんし、ベタ足のまま沈み込まないと打てません。これだけでいい練習になります」

横田プロによるとベタ足の動きがわかると自然に下半身が使えるようになるため、手打ちが解消されるという。足裏の粘りは、最新理論のシャローイングや地面反力にもつながる動き。それほど難しい動きでもないため、チャレンジする価値はあるぞ。

Drill 1
フットドリル

下半身、とくに右足裏とかかとの動きを体に覚え込ませるボディドリル。両手を胸の前でクロスした状態でスウィングの動きをする。右足の内側を粘らせながら、フィニッシュで右太ももを左太ももにつける正しいベタ足の動きを意識しながら行う。時間をかけてゆっくりやるとさらに効果的

Drill 2
クラブ跨ぎ打ち

Drill 3
極端に短く持って打つ

週刊ゴルフダイジェスト2021年6月29日号より