ミスの原因は「時間のかけすぎ」。 構えたらサッと打つ“3秒ルール”でゴルフが激変する
PHOTO/Taku Miyamoto、Yasuo Masuda、Tadashi Anezaki、Shinji Osawa、Takanori Miki
昨秋プロ転向し、今や日本を代表する選手として活躍する大型新人・金谷拓実。そのゴルフスタイルを見て感じるのは、とにかく構えてから打つまでが早い! このスタイルには、我々にも役に立つ上達のヒントが詰まっていた!
解説/石井忍
1974年千葉県生まれ。日大ゴルフ部を経て98年プロ転向。ツアープロとして活躍後、多くのトッププロのコーチを務める。アマチュアゴルファーへの指導力も抜群。「ACE GOLF CLUB」主宰
打つまでの時間の使い方が
プレーを大きく左右する
「ゴルファーに『テンポ』とは何かを聞くと、多くの人は“チャー・シュー・メン”のようなスウィングのリズムを思い浮かべると思います。でも、テンポには、プレーにかける時間という意味合いもあります。アドレスに入ってから打つまでの時間の使い方を変えるだけで、ゴルフがガラッと変化する可能性があることを知ってほしいんです」と話すのは、ショートゲームの独自理論・指導力に定評がある石井忍プロ。
「多くのパット名手に共通するのは、最後にターゲットを見て目線を戻してから3秒以内に始動していること。プロが1つのプレーにかける時間を計測するだけでも面白いですし、勉強になるはずです。この“構えて3秒で始動”がオススメなのは、パッティングだけではなく、アプローチやショットでも同じ。すべてつながっているので、どれかが遅い人は全体的に遅いことも多いんです。金谷くんなんて、2秒くらいですよ。だからといって何も考えてないわけではなくて、思考がシンプルなんだと思います」
実際、金谷はよく「準備はしっかりして、シンプルに考えたい」と言う
「ゴルフは一定時間の中で情報を処理してそれを実現しないといけません。情報には、環境的なものと状況的なものがある。前者は傾斜や風、芝目など物理的なもの。後者は『ここは狙う』『2パットでいい』など心理面に関わるもの。この2つの情報を上手く処理して、思考をシンプルにし、ストロークに向かいたい。そして最後は、あのへんにあのくらいという“アバウト感”も必要です」(石井)
トップ選手のテンポを観察してみよう
子気味いいテンポ
山下美夢有
今年10戦中トップ10入り6回(優勝1回含む)の山下。「プレーのテンポが非常にいい。パッティングは構えて3秒弱で打っています」(石井・以下同)
ショットは遅め
J・スピース
先月復活優勝を果たしたスピースは「パットは3秒弱、アプローチは2秒と早いが、ショットは4秒くらいのときもあるのでちょっとした不安が出ているのかもしれません」
テンポがアップ!
松山英樹
マスターズ優勝という歴史的偉業を成し遂げた松山。「以前と比べるとパットが早くなったように見えます。だいたい2.5秒くらい。2秒くらいのときもありますね」
ラインや弾道のイメージが
消える前に始動する
ターゲットから視線を戻したら3秒以内に始動すべき、という「3秒ルール」について、さらに具体的に聞いていこう。
「思考をシンプルにするためには、必要以上の情報を入れないことも大切。最悪なのは考えすぎて、頭の中はぐるぐる動いているのに、体が固まってお地蔵さんのように停止すること。始動までに時間をかけるほど、こうなってしまいがち。逆に、体は動いているけれど思考はシンプルになっている状態ならば、スムーズな動きをいつも同じように行うことができる。また、これは人からの受け売りですが、景色をパッと見て目を逸らすと色を忘れるそうです。過去の記憶は覚えていても、今の記憶は3秒で忘れると。パットに置き換えると、目標を見てから3秒以内に始動しないと、せっかく読んだラインを忘れてしまう。結果、タッチも分からなくなってしまうんです」
「3秒以内」というのは、早ければ早いほうがいいのだろうか。
「あまりに早くすると、ストロークのための準備がおろそかになり、雑になって打ち急いだりする。100m走のスタートでも、『位置について、よーい、ドン』という表現のように、一息つく時間がないと、気持ちも体もいい塩梅にスーッとおさまらない。落ち着いてストロークするには、構えてから2~3秒で始動するのがちょうどいいと思います」
また、年齢とともに情報過多になりやすいが「過去の不要な経験値が邪魔してくる。ジュニアは経験が乏しいぶん思考が複雑化しないので、3秒ルールが簡単に実践でき、上手くいくことも多いです」
最後に目標を見てから3秒以内に打つ!
アドレスして最後に目標を見てから3秒以内に始動するクセをつけよう。「打つまでの時間の使い方が悪いと、動きに流れがなくなりリズムを崩す。構えてから時間をかけると、ラインのイメージが打つ前に消えてしまうことも」
脳&心の専門家も太鼓判
「3秒ルール」はここがいい!
「余分な時間に負の感情が入りやすい」
大井静雄(ドイツハノーバー国際神経科学研究所名誉教授)
「ゴルファー脳」を提唱する脳科学者の大井静雄先生は、その仕組み(回路)についてこう語る。「ゴルフは脳全体を使って行う“全脳型”スポーツ。上達するには各部位の情報収集能力を高め、情報伝達・連係をスムーズに行うことが大切です。
右利きのゴルファーなら左脳の前頭葉が思考の中枢です。ここで判断し、すぐ後ろにある左右の運動神経にスウィングの指令を送ります。その際に恐怖や不安などマイナスの感情が入るとその回路がブロックされ、思うように体が動かなくなる。時間をかけると負の感情は入ってきやすいですよね。
また、運動中枢のすぐ後方には感覚中枢があり全身の感覚情報を収集します(さらに後ろの部分には視覚情報を、両側には聴覚情報を収集する役割がある)。これらは海馬で記憶されています。そうして、これらの感覚や記憶といった経験的な情報は、左脳の前頭葉での思考や判断の材料になるんです。打つ前に長い時間をかけると、ここから余計な材料も入ってきがちです」
余分な時間をかけすぎると「ゴルファー脳」の回路がスムーズにつながらないのがわかるだろう。
「もちろん、常にプラス思考でいることや、素晴らしい打感やイメージの再現を心がける思考回路も大事です。自身の感覚情報を“絶対”として受け入れ、それに対応する思考とパフォーマンスがすべて。そして、最大の喜びの再現を目指すのがゴルフの上達につながるのです」
「言葉が増えていくほど体は動けなくなる」
赤野公昭(メンタルトレーナー)
禅をメンタル強化に取り入れる赤野公昭氏は、いかに考える時間を減らすかが大事だと語る。
「(パットならば)誰しもカップを見てルーティンをしますが、構えてからヘッドが動くまでの時間が長い人が多いんです。この時間が経つほど『やはりフックかも……』『ヘッドを真っすぐ引かなければ』『ミスしたらどうしよう』など言葉は次々に増えていく。すると体はどんどん動けなくなります。そうしてカップやラインのイメージは消えていくんです。これは典型的な“左脳”パッティング。“右脳”パッティングがいかにできるか。そのためにはいかに言葉を減らせるかです」
「私のメントレラウンドでは、素振りをせずに『とりあえず』打ってもらうことも。ルーティンをすべてなくしてもらうことまであります。この『とりあえず』というのは、考える前にプレーするということなんです。それから、『孤独なプレー』は考えすぎを誘発します。プロにとってコーチやキャディの存在が大きいように、アマチュアはいかに周りの環境とつながれるか。大地、景色、風、これらとつながるほど『感じる』という状態が起こってくる。これが大切です。『考える』の逆は『考えない』ではない。考えないように、と考えてしまうし、考えることを否定するのでまた言葉が増えていく。『感じ』られるほど考えるという働きは減っていきます」
ルーティンでは
もじもじタイムも大切
「3秒ルール」を上手く使えるようになるには、その前のルーティンの時間も大事だと石井プロ。「金谷くんがサッと打てるのはイメージがつくれているのも大きい。ただ単に構えて3秒で始動するのでは適当すぎます。打つまでの時間として、ルールでは皆に最大40秒が与えられていますから」
構えてから打つまでが早いのは
入念な準備があるからこそ
準備を常に大事にし、練習ラウンドでは水平器でグリーンを計測。本番では「エイムポイント」などでラインを数値化。そこで答えが出た後は、迷いも考えもしない。「感覚とデータがマッチしてよくなった」(金谷)との言葉通り、準備があるからこそ迷わず打て、結果につながるのだ
ルーティンではストロークの形をつくるのではなく「イメージ」をつくることが大切だと石井プロ。おすすめのルーティンを教えてもらったので試してみよう。
「ルーティンはてきばきとリズムよく。パットの場合、後ろでラインを読み、ラインを見ながら正対して素振りする。自分を客観的に見られるはずです。客観視できれば、ボールが転がっているさまやスピード感をイメージしやすくなる。素振りは2~3回をパパッと行い、体のいろいろな部位を“もじもじ”動かしながらアドレスに入ります」
この“もじもじタイム”はこれから体を動かすための感覚情報を得るために大切な時間なのだという。
「そうして最後にターゲットを見て、目線を戻したら3秒以内に始動するんです。ちなみにラインをイメージできない人は、グリーン上にお風呂いっぱいの水を流したらどう流れていくか、サッカーボールを転がしたらどう転がるかイメージするなど思考をズラすのもアリです」
それでも技術に自信がないアマチュアは、常に打ち方を考えてしまうが……。
「3秒ルールには技術レベルは関係ありません。実際のラウンドでは、ルーティンや3秒ルールこそ優先してほしい。普段の練習でも、技術練習とは別にルーティンの所作の練習をして、そのなかでも『3秒ルール』はとくに意識してやってほしい。上達の近道ですよ」
ルーティンの基本は
アプローチやショットでも同じ
<アプローチ>
イメージを“点”にしない
ルーティンの基本はショットもアプローチも同じ。素振りは払うような流れで。ヘッドの入り方を気にするとイメージが“点”になりミスの要因に
<ショット>
3秒以内にフォワードプレス
フォワードプレスする人は、ターゲットから視線を戻すと同時に行うとクラブを上げやすくなる。つい時間をかけてしまい、なかなか動き出せない人にも始動の大きなきっかけになる
週刊ゴルフダイジェスト2021年6月1日号より