【イザワの法則】Vol.56「球を打たずに素振りだけ」で上手くなることはありません

ゴルファーなら、「素振りみたいに振れたらいいのに」と思ったことが一度はあるだろう。では仮に、練習を「素振りだけ」にしたら、ボールを打つより早く上達するのだろうか?
TEXT/Daisei Sugawara ILLUST/Kenji Kitamura PHOTO/Hiroyuki Okazawa THANKS/福岡レイクサイドCC(PGM)
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初心者が素振りだけを
黙々とやるのは危険
高校野球の球児たちは、とにかく「素振り」をしているイメージがありますね。あれは、テレビの取材陣がそういう場面を好んで使うからというのが大きいでしょうが、それでも素振りが練習の中の大事な一要素であることは間違いないと思います。ゴルフにも素振りはありますが、それが練習になるか、つまり素振りだけしていれば上達につながるかというと、私としてはそれはちょっと「難しい」と言わざるを得ません。
たまに、「ボールは打つな、素振りをしろ」というレッスンをする人もいますが、これが有効なのはある程度スウィングが固まっている人、スコアでいうと「85」以下の人だけなんじゃないかと思います。なぜかというと、初心者やスコアが「100」前後の人の場合、自分がしている素振りで果たしてボールが真っすぐ飛ぶかどうかの判断がつかないからです。
真っすぐ飛ばないスウィングの素振りをひたすら繰り返したら、それがいつか真っすぐ飛ぶスウィングに変わる……なんてことは恐らくないでしょう。野球とゴルフで一番違う点は、野球は打球が90度の範囲に入っていればOKなのに対して、ゴルフはそれだとフェアウェイに残らないということです。なので、ゴルフの場合は素振りをするにしても、鏡を見て形をチェックしながらとか、動画を撮って見返しながらじゃないと、ただクラブを振り回す「運動」になってしまうのではないかと思います。
素振りで飛距離がアップしたとしても
スコアがよくなるとは限らない
それでも「ずっと素振りしていたら、振る力がついて飛距離が伸びるんじゃないか」と言う人がいるかもしれません。最近は、飛距離を伸ばすことに特化した素振り練習器具もあるようです。では例えば、素振りでヘッドスピードが1m/s上がったとしましょう。そうすると計算上、ドライバーの飛距離が6~7Y伸びることになります。1ラウンドでドライバーを使う機会が14回あるとして、そのたびにボールを7Y前に出していいというルールで、ヘッドスピードが上がった状態を疑似的に再現してプレーしたら、スコアはどれくらいよくなるでしょうか。興味がある人は、次のラウンドでぜひ試してみてください。
ゴルフは飛距離と方向性、それに再現性の3つが揃っていないといけなくて、しかもそれでやっと半分(ショットだけ)というのが難しいところ。それでもあえて、素振りを上達に生かしたいというのであれば、ゆっくり振ることをおすすめします。80%とか60%くらいにスピードを落として、胸の向きだとか肩の動き、腰の回転など、体の各部のポジションを確認しながら振ってみてください。鏡を見ながらのほうが当然、効果は上がります。それである程度、自分が狙った動きができるようになってきたら、今度は8番アイアンくらいで飛距離を落としてボールを打ってみてください。フルショットが140Yだとしたら、130Y、120Yという感じでスピードを落として打っていくと、普段は気付かない細かな動きのミスまで感じられるはずです。
「素振りは速く振るより
ゆっくり振ったほうが効果的」


動きを確認しながら丁寧にやろう
練習ではゆっくり素振りをしたり、わざと飛距離を落としてボールを打つのがいい。いずれも実際のスウィングの動きの中で、体の各部のポジションを確認しながら行えるのがメリット。どう動いたかわからないのは、スピードが速すぎるということ

伊澤利光
1968年生まれ。神奈川県出身。学生時代から頭角を現し、プロ入りしてからは、プロも憧れる美しいスウィングの持ち主として活躍。2001年、2003年と2度の賞金王に輝く。また、2001年、マスターズで日本人最高位の4位入賞(当時)。現在はシニアツアーを中心に活躍中
月刊ゴルフダイジェスト2025年7月号より