「タイガーが切り拓き、マキロイが進化させる」テーラーメイド『Pシリーズ』アイアンが支持される理由【ギアラボ】
ドライバーやFWの印象が強いテーラーメイドだが、実は米国ではアイアンもNo.1の売り上げを誇り、日本でもトップを争う勢いだ。その中心にある「P700シリーズ」の3モデルがモデルチェンジ。今や世界基準ともいえるアイアンの実態に迫った。
PHOTO/Hiroaki Arihara、Yasuo Masuda THANKS/クラブハウス
P700シリーズ(以下Pシリーズ)の初代が発売された2017年、「タイガー・ウッズ、テーラーメイドと契約」という衝撃のニュースが伝えられた。「パフォーマンスで決めたからこそ、答えはテーラーメイドだった」と語ったタイガー。しかし、世界一のアイアンプレーヤーである彼が最後までバッグインしなかったのがアイアンでもあった。
翌2018年、タイガーの求める最適なキャリーや打感、形状を正確に反映した同社の「TWフェーズ1」が完成。それを手にしたタイガーは、最終戦の「ツアー選手権」で復活優勝、さらに2019年にPシリーズの「P7TW」に持ち替えると、マスターズで11年ぶりのメジャー制覇を果たした。
それと並行し、タイガーのクラブに対する思想は他のPシリーズにも注がれ、以後それが中心となって開発が進んだ。今回登場した新「Pシリーズ」の3モデルにもそのDNAが宿っているという。
そしてもうひとつ、今回のモデルに反映されているのが世界ランクNo.1プレーヤー、マキロイの意見。形状、打感といった部分は、彼の好みも色濃く反映されている。
タイガーのこだわりが詰まった「P7TW」
2019年に導入した「P7TW」。タングステンを内蔵することで、タイガーの打点と重心位置を合わせる工夫が施されている。輪郭、ソール形状など、タイガーがバッグに入れているものとまったく同じ限定モデルは瞬く間に完売
P730がベースの「RORS PROTO」
ほぼマッスルバックの「RORS PROTO」は「P730」が原型。この形状は、コリン・モリカワらも使うなどツアーで人気。バックフェースの中央部が大きく削られ、重心位置が高くなりすぎない工夫が見て取れる
しかし、新「Pシリーズ」は上級者に向けたモデルだけではない。すべてのプレーヤーが高いパフォーマンスを発揮できるように4つのモデルが存在する。そこに共通するのは最高の選手が求めた“打感”と“形状”。P770、P790は中空で飛距離性能と寛容性に優れるが、いわゆる本格派の“いい顔”であり、打感も最先端のテクノロジーにより、マッスルバックのそれと遜色がないレベルにまで達している。
世界最高のプレーヤーの感性と最先端のテクノロジーが融合した「Pシリーズ」。他には決して真似することのできない、無二のアイアンだ。
現在Pシリーズは4モデル
ヘッド形状もナイスショットを生む重要な要素
頭文字の「P」は「Player’s」を意味する。全プレーヤーを意識したモノ作りや、プレーヤーが恩恵を受けられることを常に考える思想から名付けられたという。それゆえ4モデルがラインナップされているのだが、ここで共通するのは、前述したように“形状(顔)”と“打感”だ。
まずは形状。4つのモデルを見比べると、トップブレードの厚みやオフセット(グース度合い)に若干の違いはあるものの、輪郭はよく似ている。オフセット自体は小さいが、ヘッドとネックのつながり部分のしっかりした“フトコロ感”がある点、またスコアラインがネックに近いところから始まるあたりは、タイガーの好みが反映されているとみていい。ピンやグリーンを狙うアイアンにおいて、違和感なく構えられ、弾道イメージが描けるヘッド形状というのは、プレーヤーのレベルを問わず、欠かせない性能と言える。また、ヘッド形状が似ていることで、P7MBとP7MC、あるいはP7MCとP770というようなコンビネーションがしやすいこともメリット。スコアアップの可能性を広げてくれる。
次に打感。ボールコントロールが重要なアイアンでは、“球がフェースに乗る”感覚が大事になる。そのために食いつくような打感が求められるが、ここに関してはP7MBとP7MC、P770とP790では、まったくアプローチが異なる。
上級モデルのP7MBとP7MCは軟鉄の一体鍛造。それだけでも食いつく打感にはなるが、タイガーやマキロイをはじめとした超一流選手の好みの打感を追求するために、通常の2倍以上の2000トンのプレス機を使って5回鍛造するのがテーラーメイド流。これにより鉄の粒子が細かくなり密度も向上、より球持ちの良い打感になるという。
一方のP770とP790は鍛造フェースと鋳造ボディの中空構造を採用している。一般的に中空は飛距離性能が高いが、打感や打音が悪くなる傾向にある。そこを解消するために新開発の「スピードフォームエアー」という充填剤を搭載。これにより、マッスルバックにも劣らない打感の良さを実現することに成功している。
P770はテクノロジーの塊
反発の高いフェースでも軟らかい打感を生む特殊構造
複合素材のヘッドはテーラーメイドの得意とするところ。弾きの良いフェースを用いた中空構造ながら、独自の充填剤「SpeedFoam™AIR」を入れることで、打感と打音を向上。反発力と打感の良さという相反する性能を両立した。クリーンなルックスからは想像できないテクノロジーが詰まっている(P790も同様の構造)
P7MB
フェースの平面性を高め良い打感を生む“ミーリング”
P7MBのフェース面には細かなミーリングが施されているのがわかる。ウェッジにも採用されている「精密マシンミルド製法」で加工された高精度のフェースと溝により、上級者が求める質の高いスピンコントロールが可能に(P7MCも同様)
P7MC
上部のキャビティを深くして慣性モーメントを増大
前作のP7MCに比べ、新モデルはトップブレード側のキャビティ部分が深くなった。これにより慣性モーメントが増大し、マッスルバックに近い形状でありながら、ミスヒットに寛容なヘッドに仕上がっている
P790
広めのソール幅と厚いトップブレードで安心感
4モデルのなかではヘッドサイズが最も大きく寛容性の高いP790。ソールもトップブレードも幅広で、構えた際に安心感も大きい。またP770同様「貫通型スピードポケット」を採用、フェース下部でのヒットでもボール初速が落ちにくい
P700シリーズアイアン試打
New P770は幅広いプレーヤーにマッチする
試打・解説/横田英治
長年「D-1GP」の試打隊長を務めるなどクラブに精通する。また論理的かつわかりやすいレッスンはプロ・アマから厚い信頼を集める。2022年7月にゴルフサロン「クラブハウス」(千葉市)オープンさせるなど幅広く活動する
試打経験豊富な横田英治プロの元にPシリーズ4モデルを持ち込み、実際の性能をチェックしてもらった。特に興味深かったのはNew P770アイアン。
「本格派の形状、打感ももちっとしていて中空と言われなければわからないくらい。ただ芯を外しても打感が大きく変わらず飛距離の落ち込みも少ないところは、中空の恩恵をしっかり感じられます。一方で中空にありがちな激芯を食ったときに飛び過ぎる、という現象もない。アベレージから上級者まで幅広い人が安心して使えますね」
New P770
中空らしい初速とMBばりの打感
「中空なのでスピンの少ない棒球で飛ぶのかと思いきや、しっかりスピンが入るアイアンらしい弾道になる。打ち出しも高いので、最高到達点も高い。結果的に落下角度が大きくなり、グリーンでしっかり止まる。良い意味で中空らしくない“狙える”アイアン」(横田プロ・以下同)
ヘッド速度 | ボール初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 最高到達点 | キャリー |
36.4m/s | 50.1m/s | 21.0度 | 6393rpm | 32.9Y | 153.2Y |
New P7MB
ヘッドは小ぶりだけど球はしっかり上がる
「FPが大きい(刃が前に出ている)のでボールを拾いやすく、意外と高い球が打ちやすい。スピンもダントツで入ります。飛距離が出るアイアンではないので、飛びを求めず徹底的にボールを操りたいという人が使うべき」
ヘッド速度 | ボール初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 最高到達点 | キャリー |
35.5m/s | 47.6m/s | 21.3度 | 8452rpm | 30.4Y | 137.5Y |
New P7MC
グース感のあるネックは“立てて”当てやすい
「MBに比べて、わずかにオフセットが強い。その分、ロフトが立った状態で当たりやすくなるので、同じロフト設定でもMCのほうが距離が出る。MBともP770とも形状が似ているので、どちらと組み合わせても違和感がない」
ヘッド速度 | ボール初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 最高到達点 | キャリー |
35.4m/s | 48.8m/s | 20.8度 | 6157rpm | 30.7Y | 149.6Y |
P790
ミスに強いのは明らか。見た目の安心感も大きい
「P770に比べると明らかに弾き感が強い。ロフトは30.5度とやや立っているけれど、その分初速も速いので最高到達点が遠く高い“止められる”弾道に。トップブレードが厚く、当たり負けしない印象が安心感につながる」
ヘッド速度 | ボール初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 最高到達点 | キャリー |
37.3m/s | 52.5m/s | 19.8度 | 5894rpm | 34.4Y | 164.6Y |
月刊ゴルフダイジェスト2023年2月号より