【名手のアイアン物語】Vol.2 自信を持ってピンをデッドに狙える! 松山英樹の新ツアーシェイプ
松山英樹のプレーはアグレッシブである。FWでもウェッジでも常にピン側ピタリを狙って打ってくる。常にカテゴリー別で上位にランクする高いバーディ率。その背景にはもちろん、プロデビュー以来信頼をおく、ベタピンを狙える「スリクソン」アイアンの存在がある。
TEXT/Yoshiaki Takanashi
ピタリと構えが決まる!
不変の“真っすぐエッジ”
松山英樹がクラブを変えるたび、日本のゴルフマーケットは影響を受ける。とくにFWやUTなどは松山本人のスイッチも頻繁だ。しかし、松山のキャディバッグの中でここ2年以上不動のエースとなっているクラブがある。『スリクソン・Zフォージド』アイアンだ。日本人初メジャー制覇となった21年『マスターズ』も、凱旋帰国し優勝を決めた『ZOZO選手権』、22年『ソニーオープン』でもこのアイアンが彼の手にあった。松山のアイアン開発を担当する住友ゴム工業の島原佑樹さんは、松山のアイアン観をこう語る。
「松山プロにとってすべてのショットの基本、土台となっているのがアイアンではないかと思います。基本的には全番手で(弾道の)高さを求めます。そして欠かせないのが構えたときのルックスと振り心地、打感といったフィーリング面。ここが合わなければいくら結果が良くても使うことはないですね」
グリーンを狙うすべての番手でさらなる“高さ”を求めるのは、当然、よりカップ付近でボールを止めるため。ワンパットで決める最大のコツは限りなくカップに近くボールをつけること。常にアグレッシブに攻めるプレースタイルの基本がここにある。
「一貫したアイアンの好みはネックからリーディングエッジへと繋がるラインが直線的なこと。ターゲットに対してスクエアに構えられる“見た目”に大きなこだわりを感じます」(島原さん)
松山がプロデビューする前後のスリクソンアイアンはリーディングエッジに丸みのあるものが主流だったが、島原さんが開発担当となり、松山と対話を始めた頃からそのシェイプは明らかに変わった。具体的には『Z925』(12年発売)から、リーディングエッジがストレート系の新ツアーシェイプに転換。この基本形状は現在の『Zフォージド』においても変わらない。松山が自信を持って構えられるシェイプが、文字通りスリクソンアイアンの“顔”となっているわけだ。
現使用モデル
スリクソン「Zフォージド」
ネックから刃にかけてのラインは絶対に“直線的”
ネックからリーディングエッジへの繋がりが直線的に見えるように削られた『Zフォージド』の形状。基本設計は住友ゴム工業だが、プロを満足させるヘッド形状にまとめ上げるには遠藤製作所とのパートナーシップは欠かせない。精密な鍛造技術と優れた職人技(研磨技術)によって、設計意図通りの性能を持ち、プロが納得する顔を持つ“道具“が出来上がる。
前使用モデル
スリクソン「Z925」アイアン
従来の丸みを帯びたリーディングエッジの形状から、直線的な形への転換した『Z925』アイアン。ここから松山英樹好みの“顔”がスリクソンアイアンのプロファイルとなった
ソール形状の好みはタイガーと真逆!?
松山のアイアンのもうひとつの特徴は、ヒール部を一段低く落としたソール形状にある。これは持ち球であるハイドローを打ちやすくするための工夫だと、島原さんはいう。
「元々スリクソン独自のトウとヒールをはっきりと落としたソール形状の抜け感を気に入っていました。これはややインサイドアッパーにヘッドを入れ、ドローボールを打ってくるスウィング軌道にマッチしていたからでしょう。とくにヒール後方のバウンス(抵抗)はプロにとっては大きすぎないほうが良いと考えています」
タイガー・ウッズはソールのヒール側を落とさずに、あえて抵抗として使うことでフェードを打ちやすいインパクトを実現していたが、松山はその逆。まさに持ち球の違いが真逆のソール形状として現れているわけだ。
「松山プロはハイドローを基本としつつも、とくにロングアイアンではフェードで高さの打ち分けができることを重視しています。このためVソールコンセプト等、リーディングエッジが尖りすぎない設計を取り入れて、フェードを打つ際のカット軌道でもヘッドが地面に潜り過ぎないように、リーディングエッジ側の抵抗を高める工夫はしています」(島原さん)
またハッキリとした大きめの打球音を好み、打感(振り心地も含む)調整のため自ら鉛をバックフェースに貼るのも松山流。世界の頂点で引けを取らないロングショットや5Wでのスーパーショットが印象的だが、本当の強みは狙い澄ましたアイアンでのスピンコントロールにある。
2011年日本アマ時
スリクソン「Z-TX」(2代目)
アイアン流れのPWか
それともウェッジか
この一年試行錯誤が続いているのがPWの選択である。22年の年初からそれまでの『Zフォージド』のPWに替え、『クリーブランドRTX4』のプロト(46度)でゲームに臨んでいる。「PWにウェッジテイストを加えることで、さらに多様なショットが可能になるのでは、と考えています。アイアン流れのPWとウェッジ、両方のオプションを今も試行錯誤しています」(島原さん)
松山英樹のアイアン遍歴
月刊ゴルフダイジェスト2022年10月号より