「長尺にすれば飛ぶ」は本当か? ドライバー“46インチの壁”を考える
PHOTO/Akira Kato、Takanori Miki、Tadashi Anezaki
THANKS/ジオテックゴルフコンポーネント
理論的にはシャフトが1インチ長くなるとヘッドスピードが1上がるといわれ、長ければ長いほうが飛ばせるはず。しかし、最近のドライバーはヘッド体積や反発係数はルールギリギリなのに、長さは45.5~45.75インチのものが多く、上限の48インチまで余裕がある。なぜこれ以上、長くならないのだろうか?
ゼクシオ20年の歴史でも46インチは2モデルのみ
振りやすさを追求したら
アンダー46インチに!
20年以上にわたってヒットし続ける、国民的ブランドの“ゼクシオ”。初代から最新の11代目まで、46インチはわずか2モデル。その理由は“振りやすさ”を追い求めてきた結果だった!
当時としては大型の305㏄のヘッドに、46インチという長めのシャフトでデビューした初代ゼクシオ。2代目で350㏄になると短くしてミート率を高め、3代目は405㏄とヘッドをさらに大型化。SLEルールが発表された当時の4代目は適合・高反発の両モデルを揃え、適合モデルとなった5代目でついにルール上限の460㏄に。6代目は初代以来の46インチを採用するも、ヘッドの大型化はこれ以上できず、長尺化での飛距離アップも限界に来ていた。
そのため7代目以降は「クラブトータルで飛ばす」「スウィングに着眼して開発」というクラブ作りにシフト。7代目で「クラブ慣性モーメント」を小さくして振りやすさを向上させると、8代目では「スウィング慣性モーメント」を小さくしてヘッドスピードアップを狙う。9代目ではヘッド軌道を改善することでヘッドを走らせ、10代目はクラブの働きによって打点を芯に集めることを促した。現行のゼクシオ イレブンでは、さらに“振りやすさ”を追求し、より速く、正確なインパクトを実現している。
ゼクシオ20年「長さ」変遷史
初代「ゼクシオ」(2000年) 46インチ
ソールは斧の形に似た「AXソール」を採用。曲げ剛性とねじれ剛性をバランスよく複合させたシャフトで振りやすいと大ヒット。ヘッド体積は305cc、長さは46インチと長めで、重さは285g(R)と軽量だった
2代目「ゼクシオ」(2002年) 45インチ
フェース素材に SP700α-β鍛造チタンを採用し、「インパクトパワーフェース」で飛距離をアップ。ソールは「ツインAXソール」に進化。体積は350ccと大きくなり、長さは45インチと短くしてミート率アップを図った
3代目「ニューゼクシオ」(2004年) 45インチ
フェース素材にDAT55Gチタンを採用してさらに薄肉化、ボディも薄肉化した「インパクトパワーボディ」によって高反発化を追求。ヘッド体積は405ccとさらに大きくなったが、長さは45インチをキープ
4代目「ALL NEW ゼクシオ」(2006年) 45インチ
SLEルールが発表され、ルール適合と高反発の2モデルラインナップ。適合モデルは3種類のチタンを組み合わせた複合ヘッドで、高弾道・低スピンで平均飛距離をアップ。ヘッド体積は432cc、長さは45インチ
5代目「The ゼクシオ」(2008年) 45.75インチ
つかまりをよくする「パワーチャージボディ」と手元部の変形を抑える「パワーチャージシャフト」によって、1球目からハイドローを実現。ヘッド体積は460ccとなり、長さは45.75インチと前モデルより長くして飛距離を追求
6代目「新・ゼクシオ」(2010年) 46インチ
深重心にして、さらにシャフト先端部を軟らかくすることで高い打ち出し角を実現。シャフトは46インチと長くしたが、横縞柄のデザインを採用し、長く見えないように工夫してヘッドスピードがアップ
7代目「ゼクシオ セブン」(2012年) 45.5インチ
クラブ慣性モーメントを小さくして振りやすさを向上させるという新しいコンセプトのもと、シャフトを軽量化し、重心を手元側に移動。長さを45.5インチと短くすることでミート率がアップしてボール初速アップ
8代目「ゼクシオ エイト」(2014年) 45.5インチ
スウィング慣性モーメントを小さくすればヘッドスピードが上がるという理論のもと、グリップを10g、シャフトを1g軽くし、クラブ重心を10㎜手元側に移動。ヘッドを1g重くしてボールスピードもアップ
9代目「ゼクシオ ナイン」(2016年) 45・5インチ
スウィング軌道がよくなる設計で、切り返し時にヘッドが残り、コックの解放を遅らせる。ヘッドが体の近くを通り、回転半径が小さくなり、腕の振りが速くなる。遠心力がアップしてヘッドが走り、ヘッドスピードがアップ
10代目「ゼクシオ テン」(2018年) 45.75インチ
体の近くを通して体への負荷を抑えつつ、大きなしなり戻りによって一気にヘッドを走らせ芯でとらえる確率を高めるシャフトと、打点分布を徹底分析して芯を拡大したヘッドで「飛びの芯食い体験」。重さは270g(R)
11代目「ゼクシオ イレブン」(2020年) 45.75インチ
シャフトを軽量化して、グリップエンドに重量を配置。それにより、クラブの手元に重量が集中し、テークバックしやすく、安定した理想のトップ「飛びのパワーポジション」を実現し、より速く、正確なインパクトが可能に。長さ45.75インチ、重さ280g(R)
今秋発表が予想される12代目はどうなる?
ダンロップ広報の浅妻肇氏によると「弊社調べですが、一般ゴルファーの場合、46インチを境として、それよりも長くするとミート率が下がるという計測データがあります」。やはり12代目も45インチ台か?
そもそも「振りやすい」ってどういうこと?
「クラブ全体の慣性モーメントが
振り心地の目安になります」
そもそも「振りやすい」「振りにくい」とは、どういうことなのか? クラブ設計家の松尾好員氏によると「クラブ総重量が軽いほど振りやすいのは間違いない」というが、単純に軽ければいいというわけではなく、振り心地を左右する指標として「クラブ全体慣性モーメント」があるという。
松尾好員氏によると、スウィングにおいて重要なのは「振り心地」だという。
「“振り心地”とは(1)振りやすく、(2)タイミングが取れて、(3)ミートしやすいこと。例えば、松山英樹プロがシニア向け軽量クラブを振ったとします。当然、ヘッドスピードは上がりますが、タイミングが合わずに上手く当たらないはずです。これは“振り心地”が合っていないから。この振り心地の目安となるのが『クラブ全体慣性モーメント』です。モノが回転するときに必要な力を『慣性モーメント』といいますが、スウィングでは、クラブはグリップエンドを中心に回転していると考えます。そしてクラブを回転させるのにどのぐらいの力が必要かを表す数値が『クラブ全体慣性モーメント』。この値が、振り心地に大きく関わってくるんです」
基本的には、より長いほど、そしてより重いほど、クラブ全体慣性モーメントは大きい。すなわち「振りにくい」クラブということになる。
さらに松尾氏は「長年の研究の結果、ヘッドスピードによって、タイミングよく振りやすい『クラブ全体慣性モーメント』の数値が違うことが分かってきた」と言う。たとえば最新の『シム2』(純正Sシャフト)はクラブ全体慣性モーメントの値が294万g・㎠。これは、HS47m/sくらいのゴルファーが振り心地がいいと感じる値だという。ただし、ゴルファーによってスウィングのタイミングが異なるため、この数値はあくまでも目安だという。
では、「D0」「D1」といった“スウィングバランス”についてはどうなのか。
「たとえば同じ『D0』なら長さが違っても同じフィーリングなのか? という疑問に対して理論的な答えはありません。しかし、経験的に違うフィーリングになると想像できます。クラブ開発者は昔から“スウィングバランス”に関しては『とりあえずの数値』としてきたはずです。バランスは同じでも、長さも重さも異なるわけですから、スウィングバランスではクラブの“振り心地”を説明できないと考えています」(松尾氏)
「スウィングバランス」では“振り心地”はわからない
同じバランス「D0」でも、35インチのウェッジと45インチのドライバーではフィーリング、つまり“振り心地”がまったく変わるのは経験的に想像がつく。松尾氏は「1Wの長さがほぼ同じだった時代にヘッドの利き具合を判断するのには使えた」という
プロの世界ではどうか?
「15年後には48インチが
主流になる」(フィル・ミケルソン)
「振り心地」を考えると、やはりあまり長くしすぎないほうが「振りやすい」といえそうだ。とくにヘッドスピードが速くない一般ゴルファーは、46インチを超えると振り心地が悪く感じる傾向にあるといえる。では、ヘッドスピードの速いトッププロの場合はどうか? PGAツアーの事情に詳しいレックス倉本氏に話を聞いた。
「肉体改造で圧倒的な飛距離を手に入れたブライソン・デシャンボーが、さらなる飛距離を求めて48インチをテストしたことで、他の選手もどうやって飛距離を伸ばすか模索しています。すでに47.5インチの長尺を実戦投入したミケルソンは、『15年後くらいには48インチのクラブがプロショップで普通に売られているようになるだろう』とコメントしています」
「ただ、長尺は確かに飛びますが、PGAツアーのトップ選手でもコントロールが難しい。飛距離が欲しくて叩きにいっているからだとも思いますが、ミケルソンも長尺にしてからは、だいぶ球が荒れています。昨秋のマスターズ前には確かに話題になりましたが、練習で試していても、実戦投入している選手はそれほど多くありません。もちろん今後、他のクラブや自分のゴルフ全体に悪い影響が出ないようになったら、投入してくる選手は増えると思います。すでに長尺を使っているのはD・フリッテリとV・ホブランですが、彼らはもともと球の曲がらないタイプなので、長尺にも合わせやすかったんだと思います」
PGAツアーでも
46インチ超ユーザーがじわじわ増加中
●アダム・スコット
46インチで369Yのビッグドライブを披露
20年9月の全米オープンでは4日間平均で315.5Yだったが、46インチに替えた11月のヒューストンオープンでは平均326.5Yと11Yもアップ。初日には左ラフに外したものの、369Yのビッグドライブも叩き出した
●ビクトール・ホブラン
47インチと48インチの2本の1Wを使用
以前は45.75インチを使用していたが、A・スコットが46インチを使用したヒューストンオープンで、47インチと48インチの長尺2モデルを実戦投入。前者は1.3~2.2m/s、後者は1.8~2.7m/sほどボールスピードがアップ
●ディラン・フリッテリ
46インチへ移行し22Yアップ
20年に史上初の秋開催となったマスターズで5位タイに入ったD・フリッテリ。トレーニングもさることながら、1Wの長さを44.5インチから46インチに変更し、飛距離が22Yも伸びたのが要因だという
●ブライソン・デシャンボー
長尺ブームの火付け役も実戦投入はまだ
20年マスターズの練習日に48インチをテスト。実戦投入が期待されたが、結局は45インチを使用。ちなみに今年3月のアーノルド・パーマー招待で見せた370Yドライブも45.75インチだった
近い将来、1Wの長さ規制が
48インチから46インチに変更の可能性も
かねてから、飛距離偏重になると「ゴルフゲームが持つ戦略的なチャレンジを損なう」という考えを持つR&AとUSGAが用具規制の変更案を今年2月に公開。そのなかには「パター以外のクラブ長の上限を48インチから46インチへ短縮」という項目が。ただし、このクラブ長の規制は高度なスキルを持つプロ、あるいはトップアマの大会のみで適用されるローカルルールとしての採用が検討されているという
長尺にこだわるマジェスティ
総重量をとことん軽く!
46.5インチでも振りにくさなし
45インチ台が主流となったいま、46インチ超のドライバーで勝負するマジェスティ。「ヘッドスピードを上げることで初速を上げ、飛距離アップにつなげる」ことが狙いというが、通常は、長くすればするほど、クラブ全体の慣性モーメントが大きくなり、振りにくくなる。マジェスティはそこをどう解消しているのか。
マジェスティゴルフのコンセプトは『最大飛距離のアップ』。そのための一要素として長尺を採用しているが、振りやすさを犠牲にしないために、どのような工夫をしているのか。マジェスティゴルフの岩井徹氏に話を聞いた。
「長尺にするにはクラブ全体の軽量化が必須。シャフトはもちろん、グリップも軽量化することで総重量を大幅に軽くしています。グリップ、シャフトは軽く、ヘッドはある程度利かすことでスウィング軸が安定するのです。『ヘッドを利かす』といっても長尺なので、ヘッド重量は『マジェスティ ロイヤル』で180g強と超軽量に仕上げています。この重量で高打ち出し・低スピンを実現するには低重心設計が重要です。また長尺はボディターンスウィングが基本なので、全体になだらかな剛性分布曲線を描く『全体しなり』のシャフト設計も必須なんです」
「マジェスティ ロイヤル」の
クラブ全体慣性モーメントは
「ゼクシオ イレブン」と同じ293万g・㎠
●ヘッド重量は180g強
20%軽量化した独自のカーボンクラウンのおかげで重心が低くなり、高打ち出し・低スピンを実現。シャフトとグリップが軽量なので、ヘッドの利きはいい
●標準シャフトの重量は40g台前半
振り切るための軽量化はもちろん、ボディターンのスウィングに合うよう、全体になだらかな剛性分布曲線を描く「全体しなり」の設計を採用
●グリップ重量は30gとこちらも軽量
グリップが重くなるとヘッドの利きが悪くなるので、グリップも軽量化。それにより長尺でも軽快に振り切ることが可能になった
週刊ゴルフダイジェスト2021年6月1日号より