ヘッドの「重心」大研究<前編>クラブ開発において「重心」が極めて重要な理由とは?

ドライバーを語るとき、「重心」の話は避けて通れない。しかし近年、ドライバーの重心設計思想に変化が表れているという。いま改めてその実態に迫り、重心について学び直そう!
TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Takanori Miki、Hiroyuki Okazawa ILLUST/Takanori Ogura THANKS/GOLFOLIC


解説/松吉宗之
フォーティーンで故・竹林隆光氏に師事しその哲学・理論を学んだクラブ設計家。現在は群馬県でクラブメーカー「ジューシー」を主宰する
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インパクトで
シャフトが消える!?
今年も2月に外ブラ各社から最新モデルのドライバーが発売されたが、ピンゴルフが「飛び重心」を打ち出してきたことに加え、テーラーメイドも「ローバックCG」と、重心を設計コンセプトのキーワードに掲げているのが印象的だった。
もちろんドライバーの設計において重心は常に重要だったが、とくにヘッド体積がルール上限の460㏄に達して以降は、その体積内で「どこに重心を置くか」の重要性は高まる一方だ。古くはテーラーメイド「r7」が交換ウェイトを採用したのも、ウェイトの重さと配置によって重心位置を変え弾道に変化をもたらすことが目的だったし、カーボンクラウンによる低重心化、浅重心による低スピン化、深重心化による大慣性モーメント化など、重心は常にドライバー設計の重要なポイントだ。
それゆえにわれわれユーザーは、重心の重要性を当たり前のものとしてとらえているところがあるが、スポーツの道具においてこれほどまでに重心が重要視されているのはゴルフクラブだけ。野球のバットやテニスのラケットなども、先が重い・手元が重いといった程度の重心は考慮されても、ゴルフクラブのように重心の距離や高さ、深さなどがこと細かに語られることはない。
その理由についてクラブ設計家の松吉宗之さんは、ゴルフクラブの道具としての特異性にあると話す。
「まずは、野球のバットやテニスのラケットとは異なり、重心がシャフト軸線からズレたところにあるという点が1つの理由ですが、それ以上にインパクト時に起きる現象の特異さが大きな理由だと考えられます。というのも、ゴルフのインパクトでは、シャフトがしなり戻って先端側がターゲット方向に振れた状態になっています。
この瞬間はシャフトの加速によってヘッドの速度がスウィングスピードを追い越しているので簡単に言えばシャフトが“消えて”ヘッドが宙に浮いているような状態。そのためプレーヤーの操作がシャフトを通じてヘッドに伝わらず、ボールとヘッドの性能のみが弾道を左右するんです。つまり、ヘッドの挙動=弾道にもっとも大きく影響を及ぼすのがヘッドの重心と打点の関係なので、ゴルフクラブはヘッドの重心にこだわらざるを得ないのです」(松吉)
超高速カメラなどでインパクトを見ると、大きくヒール側にミスヒットした場合ヘッドは打点を中心に大きく左に、フェースが閉じる方向に回転する。ヒール側にシャフトがついた物体ということを考えれば、どんなにヒールヒットしても本来はシャフト軸に対してフェースが開く方向にブレるはずだがそうはならない。これはインパクトで「シャフトが消えた状態」になるから起こる現象にほかならないのだ。
この「シャフトが消えた」インパクトで効率よく飛ばすには、1ミリ以下の重心調整が重要になってくる。だからこそドライバー開発において重心はこれほどまでに重要視されてきたのだ。
「G440 MAX」の場合
重心位置を1ミリ変えるためにこんなに複雑化!

ヘッドの上部構造であるクラウンに軽いカーボン素材を使うことで、重心を下げつつ余剰重量を生み、重心設計の自由度も上がる
・バックウェイト
重心を深く低くするためにはこのバックウェイトをどれだけ重くできるかが重要。「G440 MAX」は、29gにも達する
・ネック部の軽量化
「カチャカチャ」搭載のためにネック部分はどうしても重くなる。「G440」シリーズではネック部を中空化して軽量化している
ドライバーはフェースとネック部の重さがカギ
強度や反発性能が必要なフェースとその周辺、そして構造が複雑なネック部は現代ドライバーにおいてもっとも重量がかさむ部分。ここをいかに軽くできるかも重要だ

インパクトではヘッドが
宙に浮いたような状態になっている

シャフトがしなり戻っている瞬間は、ヘッドはシャフトの拘束を離れ、宙に浮いているような状態。そのためインパクトの瞬間はプレーヤーの操作は利かず、ヘッドの重心と打点の関係がダイレクトに弾道に影響する
ヒールヒットでもシャフト軸を中心にヘッドは右回転するはずだが、実際はヘッドが左回転するのは、シャフトが“消えている”証拠

「低・深重心」化は
自然と「飛ぶ弾道」になりやすい

打点が重心よりも上になるとインパクト時にロフトが増える方向にヘッドが動き「ギア効果」によって高打ち出し・低スピンの「飛ぶ弾道」を得やすくなる。そのために、低・深重心化はドライバー設計の重要な設計コンセプトだった
深重心でヘッド後方が重いと、ロフトが増えて高い打ち出し角が得やすいことに加え、慣性モーメントも増大。ミスヒットに強く、高い球が打てる「やさしさ」につながる

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- ドライバーを語るとき、「重心」の話は避けて通れない。しかし近年、ドライバーの重心設計思想に変化が表れているという。いま改めてその実態に迫り、重心について学び直そう! TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Takanori Miki、Hiroyuki Okazawa ILLUST/Takanori Ogura THANKS/GOLFOLIC ……
月刊ゴルフダイジェスト2025年6月号より