今週行われる日本女子プロ選手権（9/11〜14）は大洗GC、来月の日本オープン（10/16〜19）は日光CCで開催されるが、どちらも井上誠一が手掛けたコースだ。コース設計の世界では優美さを求めた作風から「柔の井上」と称される日本を代表する設計家で、「美」を探求した井上誠一の世界を探ってみた!

資料提供／嶋村唯史（コース設計家、井上誠一最後の弟子）
構成／吉川丈雄（特別編集委員）

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  知られざる“井上誠一”の世界 ＜前編＞アリソンから受け継いだ設計理念「コースは美しく、戦略的でなくてはならない」

  今週行われる日本女子プロ選手権（9/11〜14）は大洗GC、来月の日本オープン（10/16〜19）は日光CCで開催されるが、どちらも井上誠一が手掛けたコースだ。コース設計の世界では優美さを求めた作風から「柔の井上」と称される日本を代表する設計家で、「美」を探求した井上誠一の世界を探ってみた! 資料提供／嶋村唯史（コース設計家、井上誠一最後の弟子）構成／吉川丈雄（特別編集委員） ……

「立地条件が良ければ
結果的に良いコースになり
そのひとつが大洗ですね」

大洗ゴルフ倶楽部
18H・7205Y・P72
●茨城県東茨城郡大洗町磯浜町8231-1
●開場／1953年　●設計／井上誠一
●1998年日本オープン開催、2025年日本女子プロ選手権開催

大洗GCの建設以前は、どちらかといえば原野に近く海もかなり見えていた。徳川幕府が海岸の防風、防砂のために植林した黒松林が戦後手入れされないままに放置されていた。茨城県知事友末洋治はゴルフ場建設を計画し、同じ霞ヶ関CCの会員だった藤田欽也に相談するとコース設計は井上誠一に決まった。海岸に沿って群生している黒松林から海に流れ込む養分によりプランクトンが発生し魚が集まってくる効果があり、漁民にとって重要で意味のある魚付け林だけにゴルフ場建設には反対意見が出た。

「砂丘地の自然を残す、黒松林は自然の障害物とする。人工的造形を避ける、裸地はラフにする、グリーンは1グリーン」とすることで井上は解決を図った。自然を生かし戦略性を持ったゴルフ場の典型として日本では数少ないシーサイドコースとなり、井上は「得難い日本ゴルフコースの宝物といえる」と書き残している。 建設当時のワングリーンはベントと高麗のコンビネーションだったが平成3年、コース設計家の大久保昌によりオールベントのワングリーンへと変更された。

大洗GCの特徴といえば、やはり各ホールをセパレートしている密度の濃い黒松林だろう。建設当時からあった黒松は大きく育ち、フェアウェイ幅は十分にあるものの狭く感じ、伸びた枝が上空にハザードを形成している。そのため構えた時、フェアウェイと上空の狭さを感じることによりプレッシャーを受けることになる。実際には広いのに、だ。フェアウェイの狙った場所に打つことができても、松の枝が張り出し2打目のショットが打ちにくくなるケースがある。

さらに密になっている黒松林に打ち込んでしまえば脱出は困難となり難度は高まる。加えてバンカーも難しく、明らかに打ち込んではいけない、入れてはいけない場所である。ここでの攻略はフェアウェイの狙い場所をいつもより考え抜き、2打目以降のことを考慮しながら打つことである。平成10年の日本オープンでは4日間の平均ストロークは75.6とコースレートを上回り、大洗GCが紛れもなく難コースであることを証明することにもなった。

「コース設計を自分なりに体系化した。
これが私の仕事で私自身なのだ」

日本のコース設計は欧米と比較すると独特な部分が多々ある。井上誠一はアメリカのコース設計、工事などとの比較により、気候風土が異なるように日本におけるコース設計に関して自分独自の「造り方、思想」を確立していた。 アメリカでは、

①コース設計家の地位が確立されている
コース設計家協会があり社会的地位も保証されている。

②規則（ルール）は自分たちで作り守るということに徹している
例えば18ホール、パー72でなくてもよく、471ヤード以下でもパー5に設定することもある。またコース内の杭をなくす。すべてプレーヤー自身の判断によって運営が行われている。

③ゴルフをスポーツとしてとらえている
トーナメントは別としてゴルフ自体を企業化していない。倶楽部自体は非常に閉鎖的である。

④コース造成を地域開発計画のひとつの方法としている
アメリカにおいては高級住宅地、別荘の条件のひとつのとしてゴルフコースとの隣接が挙げられる。その他、砂漠化する地域に対しての緑化政策の一環として誘致している。

⑤ゴルフコースとしての適地に計画をする
無理な地形の場所に造るのではなく、コース適地を見つけそこに造る。基本的にコース計画の発想が異なり、当然防災、土工事の比率が小さくなる。

⑥コース設計者は造成工事すべてを施工管理する
日本の場合、工事の元請けと同じ立場であり、総括的な設計施工管理者となる。つまりコース設計、排水、土木、仕上げ、散水、管理などすべてを計画する。設計料の算定も一般的に工事費の10パーセントといわれ、日本から設計依頼した場合は工事費の取り扱い方によりトラブルを生じることが多い。

⑦省力化が進んでいる
コース管理、キャディなどすべて機械による管理が行われており、キャディもいなく乗用カートが主流となっている。特に女性キャディは雇用せず、男性キャディを採用している。コースの管理状態は日本のほうが一般的に良いといわれている。芝の管理上、散水（特に自動）施設が必要となっている。

⑧工事費が安い
原因として④で書いたように基本的な要素があり工事に伴う他の経費があまりかからない。⑤の関係により防災、土工事の比率が小さく、日本的な重機による土工事はほとんどない。仕上げ造成においても基本的に造園観念が異なり、かなりの省力化（機械化）ができる。設計仕様が異なる。一般的に張り芝ではなく播き芝が多い。ワングリーン性なのでフェアウェイ面積が比較的に少ない。

「井上誠一」を物語る
珠玉のコースたち

美しさと戦略性を兼ね備えた井上設計コースは面白さと難しさが混在し印象度も高い。それゆえに全国に点在する井上設計コースを巡るゴルファーも多くいる。それだけ魅力的だということだ。国内38コース、海外2コースを設計。

まだある井上誠一の耽美なコース

久里浜GC（神奈川／1935年・閉鎖）
旧日立GC（茨城／1936年・閉鎖）
泡瀬メドウズGC（沖縄／1948年・返還）
旧東雲GC（東京／1952年・閉鎖）
札幌GC輪厚C（北海道／1958年）
龍ヶ崎CC（茨城／1958年）
枚方CC（大阪／1959年）
武蔵CC笹井C（埼玉／1959年）
桑名CC（三重／1960年）
茨木CC西C（大阪／1961年）
よみうりGC（東京／1961年）
戸塚CC西C（神奈川／1962年）
赤倉GC（新潟／1963年）
東京よみうりCC（東京／1964年）
春日井CC（愛知／1964年）
天城高原GC（静岡／1965年）
瀬田GC東C（滋賀／1967年）
鶴舞CC（千葉／1971年）
札幌GC由仁C（北海道／1974年）
烏山城CC（栃木／1973年）
南山CC（愛知／1975年）
葛城GC山名C、宇刈C（静岡／1976年）
瀬田GC北C（滋賀／1978年）
大原・御宿GC（千葉／1982年）
スターツ笠間GC（茨城／1985年）
フィリピナスG&CC（フィリピン／1962年）
スバンナショナルGC（マレーシア／1968年）

週刊ゴルフダイジェスト2025年9月16日号