【名手の名言】井上誠一「プランニングがしっかりしていなければ、いいコースにはならない」
レジェンドと呼ばれるゴルフの名手たちは、その言葉にも重みがある。ゴルフに限らず、仕事や人生におけるヒントが詰まった「名手の名言」。今回は日本のゴルフコース設計の第一人者、井上誠一の言葉を2つご紹介!
プランニングがしっかりしていなければ
いくらデザイニングがよくても
いいコースにはならない
井上誠一
井上誠一。ゴルファーならばこの名前を一度ならずとも聞いたことがあるだろう。そう、日本でのゴルフ設計家、第一人者である。
井上が設計し、今も現存するのは全国で41コース。そのどれもが名コースとして知られているが、唯一気に入らなかったコースがひとつあるというのはゴルフ界では有名な話。
あえて名前は出さないが、なぜ気に入らなかったというと、表題の「言葉」のなかでいう“プランニング”が設計家・井上の考えていることとは違っていたからだ。
ハウスや駐車場の位置が、プランとは違っていたし、当初あったハウスそのものの設計も気にいっていなかった。コースレイアウトも、現在のアウトとインが逆だったという。
もちろん、コース造成には設計家の理想ありきではなく、さまざまな要因で変更はありうる。井上はその点では柔軟であったのだが、よほど造成段階で最初の構想が変更されたりという感情のボタンの掛け違いがあったのだろう。
自分が設計したコースは我が子も同じで、その後も各コースへ足繁く通ったが、そのコースだけには足を向けなかったのは設計家・井上誠一の矜持であった。
自然の声に耳を傾ける
井上誠一
「未開発の山野の自然を可能な限り残して、美しいコースを造る」
これが井上の設計哲学だった。造成地にじっと佇み、自然の声に耳を傾けることが、最初に井上のやることだった。造成が始まると、度々訪れて、双眼鏡をのぞいて、図面上にない樹木があったりすると、現場作業責任者に「切りなさるなよ」と釘をさすのが常だった。
またオーナーの一存で設計にない人工物など配すると、取り除かさせた。それでも言うことを聞かないと、二度とそのコースへは足を踏み入れなかったという。自然の景観を壊したくなかったのである。
どんなに自然を守るといっても、ゴルフコースは大地を刻む行為なのだから人工物などもってのほか、というわけである。
日本独自の造成観も持っていた。例を挙げると、日本は年間降雨量1000ミリの雨の多い国。だから、池とグリーンを離してなお美しい景観を現出するには、どうしたらいいかという方法を編み出してもいる。 日本の自然の美にこだわった人だった。
■井上誠一(1908~1981年)
いのうえ・せいいち。東京の裕福な医者の家に生まれた。高校時代、大病を患い静養を兼ねてゴルフを始めた。療養にいった静岡県川奈で英国人設計家チャールズ・アリソンと出合ったことで、設計家の道を志すことになる。というのも、井上が会員だった霞ヶ関CCの改造を、アリソンは弟子ジョージ・ペングレーに任せ帰国。ペングレーの下で井上も働き、そこで自然を大事にする設計の何たるかを、土にまみれながら知ったといわれている。代表作は霞ヶ関CC西コース、大洗GC、日光CC、愛知CC、札幌GC輪厚コースなど。