【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.267「貧乏ゆすり」の巻
ILLUST/アオシマチュウジ
貧乏ゆすりをする人ってよくいますよね。私も最近公共交通機関の中で貧乏ゆすりでプレッシャーをかけてくる人に出会ったんですけど、この時期だからこそ多くなってしまっている気もするんですよ。よく貧乏になるという迷信もありますが、実際はどうなんでしょうね。確かに私の知り合いにも貧乏になった可能性のある人はいますが……。
電車の中で隣のおじさんに圧をかけられる
先日、5月11日までだった緊急事態宣言が、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で31日までの延長が決まりました。加えて愛知、福岡も緊急事態宣言が発令されることに。
31日には緊急事態宣言解除を目指すという方針とはいえ、なんとも心もとない気分で、不安ばかりな毎日を過ごしています。
そのせいか、仕事の都合で公共機関の電車を利用することもあるのですが、イライラしている人が多いので、ガラガラの電車に乗っていても、混雑時以上のストレスを感じることがあります。腰が痛かったので空いてる席に座ったんですが、席に着いた途端に隣のおじさんに睨まれてしまったんです。
そのおじさんは週刊ゴルフダイジェストを読んでいたので、きっといい人なのであろう、同じゴルフ好き同士、語らぬけれども親近感を感じてしまっていたのですが、座った途端に「ぎろり」と睨まれたその眼には「あっち行ってくれよ、兄ちゃん」と言わんばかりのすごみが宿り、間髪入れずに「ゴホン」と咳払いをされました。
睨まれるならまだしも、いくらマスクをつけているとはいえ、咳払いはこのご時世ダメでしょ。まるであおり運転をされてクラクションを鳴らされているような感じで内心、ハラハラドキドキしました。
ここで私も斜め前に空いている席があったので、そっちに移ればいいものを、根がひねくれもの、しかも負けず嫌いなので、何食わぬ顔をして座り続けました。ゴルフダイジェストの愛読者には悪い人はいないんだという強い思い込みを信じるがままに。
すると貧乏ゆすりが始まったのです。私と接しているすぐ近くの左足をトン・トン・トンと。私の耳には、「あっちいけ!あっちいけ!」と聞こえてきました。貧乏ゆすりをすると、貧乏になるからよしなさいと、母に子供のころに言われた覚えがあります。
しかし、考えてみれば貧乏ゆすりをしているのは私ではなく、隣のゴルフダイジェストを読んでいるおじさんなので、このおじさんが勝手に貧乏になるのは、どうぞご勝手になさってくださいという心情でした。ですので、またわれ関せずと狸を決め込んで知らん顔を続けて座っていました。
貧乏ゆすりは貧乏になるって嘘? 本当?
母の言っていた「貧乏ゆすりをすると、貧乏になる」は当てになりません。だって私が今まで生きてきた経験上、貧乏ゆすりをしているお金持ちがたくさんいました。足を用もないのにカタカタ。それでも私の知る限りうーんとお金持ちが多いんです。ある人は個人経営のシステムエンジニア。手広く事業をしており、私にはとてもよくしてくれました。コロナ前は、ゴルフにもよく連れて行ってもらっていました。
近場の名門コースから、宮崎、大分、北海道。美味しいものもたくさんごちそうになりました。「たまには僕が払います」と言っても、クロコダイルの手提げカバンから「いいのいいの。ここは僕に任せてよ」と笑いながら見たこともない色のクレジットカードを出してお勘定をしていました。
同じ会社のクレジットカードは持ってはいるのですが、金でも銀でもプラチナでもない見たことのない鉱物の色だったんです。
それこそゴルフの最中でもカタカタカタ。自分がティーショットを打ち終えると、次の人がアドレスからショットをするまでカタカタカタ。なんだかせっつかれているようで「気になるから、そのカタカタやめてくださいよー」とやんわりと言ったのだが、「ごめんごめん、これクセなんだよね」と笑いながら話してきたんです。
どうやら急かされているふうでもないので、次からは一切気にならなくなりました。さすがにパットのときはやらないのだが、サウナのときでも食事のときでもカタカタカタ。貧乏ゆすりのお金持ち。今では、あの社長さんとも全然連絡を取っていなかったけれど、以前はよく電話をしていたので、月刊ゴルフダイジェストに社長のことを書いてもいいですかと連絡してみたら「現在お客様のご都合によりこの番号は使われておりません」と、滑舌のよいナレーションが聞こえてきました。貧乏ゆすりのせいで貧乏になったのかもしれないですね。
イライラは人ではなくコロナのせい
さて、このおじさん、よほど隣に私が座ったのが嫌だったのか、「あーあ」と嫌な声を漏らしたと思ったら隣の車両へ行ってしまったんです。
今この原稿を書いていてもムカムカする。ゴルフダイジェストを読んでいる人には悪い人はいない。きっとあのおじさんが悪いんじゃない。コロナがいけないんだ。なんて思えるいい人になりたいな。
コロナ禍で 人の心も イライラ化
貧乏ゆすりという言葉は、江戸時代の書物や、俳句や川柳に登場するもの。この頃に、足をゆすると貧乏神に取り憑かれるという迷信が生まれたそう。
月刊ゴルフダイジェスト2021年7月号より