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【ゴルフイップス解体新書 #12】対処法はレベルによって違う! アプローチイップスの処方箋②

同じアプローチイップスでも、ゴルファーのレベルによって適切な対処法は異なるとメンタルコーチの石井亘氏は言う。

前回のお話はこちら

石井 前回に続き、悩んでいる人が多いアプローチイップスについて掘り下げていきましょう。やはりみなさん興味があるのは、どうすれば治せるのか? という点でしょうか。

GD そうだと思います! ドライバーイップスもつらいですが、アプローチはピンがすぐそこなだけに、症状が出たときの心の痛みは計り知れません。

石井 アプローチに限りませんが、イップスの原因が技術的な部分にあると考える人も少なくありません。

GD なんでもない花道からザックリ、ザックリ、トップ……。ついつい打ち方に原因があると思ってしまいます。

石井 前回も申し上げた通り、アプローチイップスの根本原因は「トラウマの条件反射」にあると私は考えています。でも、「イップスの症状が出るのは技術的に問題があるからだ」と考えること自体は悪いことではありません。

GD どういうことでしょう?

石井 単純に自分はまだ下手で、技術を磨いて打ち方を修正できればイップスが克服できる、と考えていれば、ミスが出ても、感情的になってトラウマ記憶を悪化させる、ということが起こりにくくなります。ただし――

GD ただし?

石井 間違いのない技術を教えてくれる存在があってこそ。たとえばアプローチでザックリばかり出るのに、もっと上からヘッドを入れろ! なんてアドバイスされたら、余計にザックリが出やすくなりますよね。

GD もっとボールを右に置けなんていうアドバイスもありますが、それも入射角が鋭角になって、ザックリを助長する可能性があります。

石井 イップスのメカニズムをよく理解し、バウンスを最大に使うなど、ミスの許容範囲の大きい打ち方を教えてくれる、そんな信頼のおけるプロを選ぶことが大事ですね。ただ、技術面の改善でイップスを克服できるのは、ハンディ15以上のアベレージゴルファーだけと考えていいでしょう。

GD 上級者には意味がないんですか?

石井 意味がないというわけではありませんが、ある程度経験を重ねている中~上級者(ハンディ6~14程度)であれば、ライへの対応も含め、アプローチの技術はそれなりのものをもっているはず。それでもイップスの症状が出るということは、やはりメンタルの問題ということになります。

GD ということは……。

石井 はい、前回お話しした“記憶の上書き”によって徐々に嫌なトラウマを弱くしていくというやり方が基本になってきます。

GD 時間をかけて地道に小さな成功体験を積み重ねていくしかないわけですね。

石井 はい。どれくらいイップスが複雑化しているかにもよりますが、早い段階で適切に対応できれば、1年、あるいはもっと早く改善する可能性も十分にありますし、実際にそういった事例は少なくありませんでした。

克服の過程を楽しむ気持ちが大事

GD では、イップスが複雑化している場合は?

石井 これはハンディ5以下のトップアマやプロレベルのゴルファーに見られるケースがほとんど。技術に自信があるぶん、少しのミスも許容できずに、トラウマを複雑化させているパターンや、以前紹介した「神経不全型」のイップスである可能性も高い。こうなると、改善にはどうしても時間がかかります。

GD 「イップスに特効薬はない」でしたね。

石井 はい。長くイップスに悩んでいるゴルファーほど、新しいクラブや打ち方、ブレスレットやサプリメント、暗示催眠セラピーといった“特効薬”に飛びついて、一瞬よくなった気がしても、すぐに「やっぱりダメだった……」ということを繰り返してきています。そして、このようなことを繰り返すなかで、余計にトラウマを複雑化させてしまっているのです。

GD ではどうすれば?

石井 まずは「イップス克服には時間がかかるもの」という事実を受け止め、イップスの症状が出ても感情的にならず、今の状態を受け入れる、ということから始めましょう。そのうえで、イップスの改善に効果があると考えられる方法を地道に試していくことです。

GD たとえばどんな方法がありますか?

石井 そうですね……「チャー・シュー・メーン」はご存じですか?

GD もちろん! 『あした天気になあれ』で向太陽がショットを打つときに口ずさむ言葉です。

石井 こうやってリズムを意識する方法も、試してみる価値はあります。実際に海外の研究では、打つときに「エー・デル・ワイス」と口ずさむことでイップスの軽減効果があったといいます。

GD つい体の動きに意識が行きがちなところを、リズムを口にすることで別のところに意識を向けられるわけですね。

石井 それから、以前プロゴルファーの服部真夕選手が、アプローチを左打ちにして復活を遂げたことがありました。

GD 深刻なアプローチイップスに陥り悩んだすえ、ウェッジだけ左用にして練習を重ね、2021年のステップ・アップ・ツアーで復活優勝を果たしました。

石井 非常に勇気のいる選択だったと思いますが、これも極めて現実的な対処法のひとつです。いざとなれば左で打てるんだ、という安心感が生まれれば、近い将来、また右打ちに戻れる可能性もあります。

GD 私の周りにも、ドライバーだけ左打ちにしたとか、パターだけ左用を使っている人がいますが、このようにどんどん新しいことを試してみることも重要なんですね。

石井 そうなんです。複雑化したイップスは一朝一夕には治りません。であれば、それを受け入れ、そして困難なものに立ち向かい克服する過程さえも楽しんでしまうのです。その経験は、ゴルフだけでなく仕事や日常生活で遭遇するあらゆる壁を乗り越えるうえでも必ず役に立ちます。

GD イップスはつらく苦しいものですが、イップスになったことが、逆に新しい自分に挑戦できるチャンスととらえてしまえばいいわけですね!

石井 はい。そういった気持ちが何よりも大切です。私もぜひみなさんの成長のお手伝いをしたいと思っていますので、イップスの症状に悩む方はすぐにご相談ください!

GD 長きにわたり、貴重なお話の数々をありがとうございました!

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石井 亘

いしい・わたる。ゴルフ好きのメンタルコーチ。「本来の力を発揮させる!」を信条に、20年にわたり、プロやテスト受験生、アスリート、音楽家、医師、経営者、中高生など1000人近くを指導。「メンタルトレーニング石井塾」主宰