【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.90「ギターとスウィング」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Tsukasa Kobayashi
高松厚というプロがおります。昔、プロミュージシャンをしておった異色のプロです。ドラムを叩いて生活しておったんです。
久しぶりに高松と会うと、なんやフワッと、なにかがゆるむんです。思考がゆるむという感じですわ。でも、僕はゆるみたいんです。
突き詰めて考えるタイプやからでしょうね。だから、高松と会って話をするといつも発見があります。
僕は52歳でギターを始めたんですが、まずはギター教室に行ったんです。8回行って、「こうこうこうで、こう弾くように教わった」と高松に説明したら、すぐ「今日で教室はやめなさい。僕が教えるから」と言う。
「曲のままに弾けばいいんだよ。音楽は本番が命だから。お客さんを前にして、譜面を見て一生懸命やってもダメ。楽しく、お客さんも一緒に乗せてしまおう。そういうのが音楽なんだよ」って。
これ、ゴルフのスウィングと一緒ですよね。
教室の先生は、優しくていい先生やったんですよ。右手をこうやって動かす、左手はこう押さえて、コードチェンジはこう。メトロノームを使ってこうしなさい、と。マニュアル通りです。
それを高松は「オクちゃん、ゴルフが上手くなるのに、ゴルフの本を見て、アドレスはこうして、バックスウィングはここから上げて、トップはここ、ダウンスウィングは足からで……そういうことできる?」って。
たとえば、C7メジャー何とかという、難しいコードがあるとするでしょう。それをどう弾こうか悩んでると、「そんなのCでいいんだよ。それよりもその曲らしく、リズムは狂わさないように」と。
左手の押さえるところに気を取られて、こだわってリズムがおかしくなるんやったら、Cでいいと言うんです。
左手で押さえることがどうでもいいということではないんですけど、それは、少し練習をしたらまあまあ誰でもできるんです。それよりも、ギターの一番難しいのは、右手なんです。右手がもう、めちゃくちゃ難しい。リズムをつくりますからね。
そういえば高松のゴルフは、リズムがずーっと変わらんのです。一定です。僕のは、速くなったり、遅くなったり、忙しい。人生もこんなんと一緒かもしれません。
「些末なことに気を取られすぎると、大事な流れをなくします」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2022年8月2日号より