「驚きの編入システム」「学業も必須」「奨学金が充実」留学生ゴルファーに聞いたアメリカの大学事情
若いうちに世界に飛び出すゴルファーたち。理由や時期、方法は違えど、みな日々経験を重ね、成長しているようだ。そんな海外留学ゴルファーやその親に話を聞いてみた。
PHOTO/本人提供、Hiroyuki Okazawa、Tadashi Anezaki
[Case 1]今秋からオレゴン州立大に編入
長野未祈(みのり)さん(21)
「アメリカでどれだけできるのか、楽しみになってきた」
「アメリカにはジュニアの試合で行ったり、毎年冬に合宿をしていました。練習環境がよかったのと、やっぱりアメリカでゴルフをするのが楽しくて、高3で当時高校生でも受けられたアメリカのQTを受けたんです。ただ、QTでは二次でスコアを書き間違え失格になってしまって……」
長野未祈さんの留学は、自身のミスから始まったのだという。
「そのQTをアテンドしてくださったのがレックス倉本さんの奥様、美和さん。そのままレックスさんの家に行き、アメリカの大学の話を聞いて興味を持ち始めた。決めたのは12月末です。急遽だったので成績が足りず、まず短大(セミノールステート)に入りました」
千葉・麗澤高校卒業後、アメリカに渡った。
「やっぱりホームシックになった。日本人は誰もいないので、短大から30分のレックスさんの家に毎週末行ったり。当初はチームメイトにも自分の意見が上手く伝えられず、寮のルームメイトはイギリスの子で、文化も違うし、英語だと100%理解できず、気持ちを伝えるのも難しくて。でも、2年目に東北高校出身の工藤みなみさんが入学。教える立場にもなりますし、環境にも慣れてきたんです」
今は、生活で英語に困ることはない。聴き取れなければ「もう少しゆっくり言ってくれない?」と言えるようにもなった。
アメリカの大学はまず勉強。歴史、社会、化学や数学、栄養学などを学んだ。
「勉強はかなり大変。宿題も多いし、英語がファーストランゲージではないので、そのぶん時間がかかります。そういうときは、英語が話せる友達に手伝ってもらいます。それまで一人の生活もしたことがない私が勉強もゴルフも頑張った。いろいろ経験していくにつれ、自分がアメリカのアマチュアのなかでどれだけできるのかを見ていくのが楽しくなってきました」
おっとり話す長野さん。性格は大胆?「どちらかというとビビリです」。チームで練習だけでなく遊びにも行く。彼氏は?「遊びに誘われたりはしますけど、やっぱり日本人がいいかな。でもそういう時間もないです」
ゴルフの技術も上がった。
「明らかにショートゲームに自信を持てるようになった。毎日芝の上から練習しているのが大きい。日本と芝が違うので、いろいろな打ち方をイメージしています」
成績を残し、強い大学からオファーが来た。今秋フルスカラシップでオレゴン州立大に編入する。
プラチナ世代。同期が日本ツアーで活躍している。
「1年目は焦りました。いいなあと思ったり。でも逆に活躍をモチベーションにもして。自分がやるべきことを決めてからは、周りのことは考える余裕がなくなりました。この過程を経たから100%プロの道に行くと決められると思う。それに日本ではゴルフしかしてなかったけど、栄養学や生活していくうえで必要なことも学べる。いろいろな人との出会いもある。総合的に考えて、来てよかった」
今年の目標は?
「新しい環境なので、学校の単位を取ること、全試合にレギュラーで出場して大学の個人ランキング10位以内に入ることです。米ツアーのQTを来年に受けられるように今年から準備したい」
日本に戻る気は今のところない。長野さんは新しいスタートを切るため、7月中旬、オレゴンに発つ。
「ゴルフ場に5分で行けて、芝から打てるし、練習場ではアプローチ・パットもOK、ジムもあるし全部が近い。練習してトレーニングしてお昼を食べてまたすぐ練習、ができます。毎日いろんなことに挑戦したり新しいことを学んだり。楽しいです!」
[Case 2]ハワイからネバダ州立大に編入
岡田圭太さん(20)
「米ゴルフ界は全体のシステムが確立されている」
長くトップアマとして活躍する岡田光史さん。次男の圭太さんがアメリカ留学中だ。きっかけは中2で参加したIMGアカデミーのサマーキャンプ。「流れで本人が希望しIMG高校に。安全で環境もよく、他のスポーツの一流選手も多くいて、かなり刺激を受けたみたいです」
充実した3年間。このときの苦労もステップになったという。
「アメリカは西と東でだいぶ違う。ハワイを含むカリフォルニアなど西はアジア系の人も多く、東は白人やスパニッシュが多く生活習慣が違うので苦労したようです」
ゴルフの実績も上がり、ハワイパシフィック大に入学。
「そこから2年間かなり頑張って、全米(ディビジョン2)で40位くらいに。結果、9月からディビジョン1のネバダ州立大学に編入します。佐藤信人プロの後輩です(笑)」
編入システムにも感心しきり。「監督に意思表示しオッケーなら“転校ポータル”に名前が出る。それを見て他の大学のコーチや担当者からメールがきて話し合います。また、ゴルフ界がつながっているから年間通してのスケジュールがマッチしており、学校を休まなくていい。奨学金なども含めてシステムが確立されています」
もっと日本人が増えるといいと言う光史さん。「行かせてよかったと思います。もう少し若いほうがよかったかと思うくらい。これからゴルフ以外の目標もできてくると思いますし、勉強のなかから何か違うものも見つけてくるんじゃないかという期待もあります」
「ゴルフ以外の目標もできてくると思います」(父・岡田光史さん)
岡田さん自身、大学卒業後2年、ミネアポリスに住んでいた。「当時から環境は最高だし、アマチュアの試合情報を雑誌で調べて手紙を書き出場したりして。すごく面白かったです」
[Case 3]オレゴン州立大から今秋転校予定
森山友貴さん(21)
「勇気を持って飛び出せるかどうか」
小学生時代から全国大会で優勝するなど日本でトップジュニアだった森山友貴さん。米国の試合にも出続けていた。森村学園から桐蔭中学へ。そして高校入学時に留学。
「友貴がぜひアメリカに行きたいと。僕も英語ができたらプラスになると思いました。普通の学校で勉強もすればより伸びると考え、ラスベガスのヘリテージに。その後、オレゴン州立大に進みました」と父・政一さん。現在国内ツアーで活躍する大西魁人とは試合で“バチバチ”戦った仲だという。「大学は奨学金をもらえばお金はかからない。食事から家庭教師もつけてくれる。特に女子は、アメフトの枠をゴルフでも使えるのでおすすめです」
アメリカのいいところは?
「まず国民性がすごく適当(笑)。でもゴルフに関しては組織が日本と比べ物にならないほどきっちりしている。たとえば日本なら、冬にグリーンに霜が降りてもそのままプレーし早いスタートは運が悪いとなる。アメリカでは1時間遅らせる。プロもジュニアも扱いは一緒です」
日本は、コースも教育も「過保護」すぎるから選手が育たない気がすると政一さん。「グリーンを大切にするのはわかりますが過保護すぎないか。ジュニアを育てるため、夕方からハーフを回らせたりはしないのに……。大学の試合も日本のリーグ戦は2日間で終了。アメリカでは厳しい戦いが優勝まで7日間続きます。プロの試合に推薦出場もない。どんなにゴルフが上手くても学業成績で、5段階で2を取ると試合に出られない。全部自分でやらないといけないから、ツアーで戦う土台ができるんです。勇気を持って飛び出すかどうか。ダメなら戻る国があるから幸せですよ」
「大学ではスタメン5人に入らないと意味がないので結構苦しんでます。その分、知らぬ間にたくましくなってるかな」。今秋の編入に向けて多くのオファーが来ている。「オクラホマ、テキサス、USC……今、YUKI MORIYAMAは有名人です」
「全部自分でやるという土台ができます」(父・森山政一さん)
今年の全英アマで父子の2ショット。「いい経験はしてますけど、物価が高いし、お金も厳しい。でも一人息子だからね。結局僕も過保護ですね(笑)。僕も一緒に住まいを借りて、日本と行き来しながら過ごしてきました」
週刊ゴルフダイジェスト2022年7月12日号より