【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.276「群馬のとろろ鍋が食べたいの巻」
冬の寒い時季に食べたくなるのが鍋ですよね。我が家も鍋といったらこれ! というものがあるんです。それが以前、群馬のゴルフ場で食べた「とろろ鍋」。あれ以来、とろろ鍋にハマってしまって、今では自宅でも冬になるととろろ鍋が鉄板になりました。家庭によって鍋の種類は変わりますが、皆さんのオススメ鍋はなんですか?
ILLUST/アオシマチュウジ
ゴルフ営業は一石二鳥のオイシイ仕事
友人から電話がかかってきたのは、北京オリンピックの女子スピードスケートを見ている最中だった。この日は、休日。久しぶりに仕事が丸1日休みでグッタリとしていた。月曜日なれど芸人なので土曜日、日曜日のほうが忙しい。平日のほうがスケジュールに余裕ができるのだ。
しかし、本来ならば埼玉の会館で落語会が入る予定だったが、コロナの状況に鑑みて、急遽キャンセルになり、1日休みとなった。最近多いのですよ。急なキャンセルや延期が。まぁ仕方のないことなので諦めていますが。
以前にこのコラムで書いたのですが、皆さんもそうでしょうが、お客さん商売は、いまだに苦しい日々が続いております。もしあなたのお近くに噺家さんなどのお客さん商売の方がいたら、優しい言葉をかけてあげてください。お願いします。
ゴルフ好きな芸人さんは、コロナ前はゴルフの営業の仕事が多かった。スポンサーさんと回り、ときにはスポンサーさんのお得意さんの組に入って、ワイワイ盛り上げてプレーして。コンペのパーティの司会をして、ちょっとした芸を披露して、ギャラをいただける。ゴルフもできるし、フトコロも温まる。しかも飲み食いありときたら、一石二鳥のいわゆるオイシイ仕事。
こんなゴルフ営業が、景気のよい頃には、月10回ぐらいは入っていたと聞く。それだけでマンションの家賃の半分くらいは払えていたそうだ。
ところが、コロナと同時にまるで水道の蛇口をピタリと止められたように、まるでオファーなし。なかには、「お前さんも大変だろう」と、お見舞金を送ってくれるスポンサーさんもいるらしいが、そればかりにも頼っていられないのが現状なのだと周りからは聞く。
群馬のとろろ鍋に舌鼓
かくゆう私は、大好きなゴルフにも行けずに、もんもんとした日々を過ごしている。年老いた母がいるので、昼の公演が終わって帰宅したら、だいたい6時に夕食となる。今日はとろろ鍋である。
この料理は、以前ホテルが隣接しているゴルフ場の晩飯で出された一品。ところは群馬。といっても高坂インターから1時間半も山あいに入った、いわゆる長野との県境だ。名湯で知られている温泉街。そこにホテル&リゾートとしてゴルフ場が造られた場所。
朝早くに出て、10時くらいのスタートで1ラウンドして、ゆっくり湯に入り、オイシイ晩御飯をいただいて、翌日ラウンドして帰京するといった、今では夢のようなゴルフ旅行となる。
その日、プレーをしてホテルにチェックインする際、「今晩の夕食は、お鍋のご用意をさせていただきますが、群馬のしゃぶしゃぶか、ご当地の名物とろろ鍋と群馬牛のオイル焼きのセット、どちらがよろしいでしょうか」とフロントの方に尋ねられた。
一行は4人。しゃぶしゃぶととろろ鍋の2対2で分かれる。私はとろろ鍋派である。そこで反対派への説得を試みる。「よく聞け。しゃぶしゃぶは、どこだって食べられる。ところが、とろろ鍋は、探してもそうないぞ! 群馬牛のオイル焼きも付いてくるんだから。とろろ、とろろ」ととろろ芋のような粘りで、ついにとろろ鍋に決定させた。
この鍋が大当たり。きのこ、青葉、白菜、油揚げ、豚しゃぶ肉を出汁で煮て、頃合いを見計らって少し味の整ったとろろ芋をすったものを、グツグツ鍋に蓋をするように入れる。ここでひと煮立ちしたら出来上がり。コクのあるメレンゲ状のとろろに、心も体も温まる。しゃぶしゃぶ派だった友人も食べた後には大いに舌鼓を打っていた。
夢の実現はいつになることやら
それ以来、我が家の定番鍋となった。
そのとろろ鍋を食べている最中に友人からの電話。食事の最中は、自分のスマホをいじってはいけないというルールがある。私のスマホがソファーの近くでブーブー鳴っていて、気になってはいたが取れずにいた。
とろろ汁とほっけの晩飯も済み、着信履歴を見ると友人から。部屋に戻ってかけ直してみる。すると、ずいぶん明るい声で「俺、陽性でホテル隔離されている」と言う。友人は、私より4歳年上。つまり64歳。持病があるということで、ホテル療養を要請して入ったそうだ。喉がちょっと痛いくらいの軽症とのこと。狭い部屋で退屈と人恋しさで電話をしてきたらしい。
少々くだらない世間話をした。その折に、とろろ鍋の話題になった。「落ち着いたらゴルフととろろ鍋、行こうぜ」と通話を切る。一段とコロナを身近に感じる。果たして夢の実現はいつになることやら。
とろろ鍋 心も体も ほっかほか
月刊ゴルフダイジェスト2022年4月号より