【陳さんとまわろう!】Vol.221「ゴルフ場にドライバーのディボット跡が続出。私のせいだと怒られたものです(笑)」
日本ゴルフ界のレジェンド、陳清波さんが自身のゴルフ観を語る当連載。今回は、昨年10月に90歳を迎えた陳さんの足跡を改めて振り返る。
TEXT/Ken Tsukada ILLUST/Takashi Matsumoto PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/河口湖CC、久我山ゴルフ
昔から「美しいスウィング」が陳さんの代名詞
―― 90歳でなお矍鑠(かくしゃく)とした陳さんですが、いい機会ですからこのへんでレジェンド陳さんの足跡を振り返ってみましょうか。
陳さん 私のことをぜんぜん知らない読者も多いでしょうからね。このじいさんは何者だ、なんてうさんくさがられても悲しいから。(笑)
――陳さんといえば何といっても1959年の日本オープン優勝です。華々しい日本デビューでした。
陳さん 東京ゴルフ倶楽部にプロとして所属するために、故郷の台湾から日本にやってきて、わずかその2カ月後に優勝したんだものねえ。試合には2年前のカナダカップ(現ワールドカップ)で優勝した中村寅吉さんとか小野光一さんをはじめ林由郎さん、小針春芳さん、石井朝夫さんといった強い選手がたくさん出ていましたからね。そんななかで日本ツアーにほとんど馴染みのなかった無名の新参者が勝ったんですから、ゴルフ界に与えたインパクトは大きかったと思いますよ。
――関西のベテラン島村祐正さんと翌日18ホールのプレーオフを戦って、5打差の勝利でした。このときの陳さんの戦いぶりや個性的な日本の選手とは違う美しいスウィングフォームを見て、報知新聞が陳さんの技術レッスンを連載で紙面に掲載。それが『陳清波の近代ゴルフ』という本になって、翌年4月に出版したところ、これが凄かった。
陳さん そう。1万部も売れればいいだろうって思っていたのが売れに売れて。この2年前にベン・ホーガンの『モダン・ゴルフ』(ベースボールマガジン社刊)が日本で発売されていましたけど、日本のプロが書いたレッスン書はなかったんだ。宮本留吉さん、戸田藤一郎さん、浅見緑蔵さんぐらいの人でも書いていなかったんだねえ。だから私の本は身近に感じてくれたんでしょ。それに本の値段が350円と安かったしね。
――スクエアグリップにスクエアスタンスというゴルフスウィングの王道ともいうべきスタイルを広めましたね。本の中に出てくるダウンブローとかニーアクション、ターンアップ、ハンドアップなどなど、ゴルファーが初めて目にする新鮮な言葉がゴルファーの間に広まりました。
陳さん そうだねえ。ドライバーショットもダウンブローに打つんだって書いてあったことがとても衝撃的だったらしく、ドライバーでティーイングエリアにディボット穴をあけるゴルファーがたくさんいたそうだよ。それがゴルフ場にとっては迷惑なことでね、あるとき試合で訪れた名門ゴルフ場の支配人から「あなたがあんなこと書くからだ」って怒られちゃってさ。(笑)
――今は昔の笑い話ですね。それから陳さんといえばワールドカップとマスターズが欠かせません。世界の檜舞台で活躍しました。
陳さん ワールドカップは1956年から66年まで連続11回出場しました。マスターズには63年から68年まで連続6回。一度も予選落ちしなかったものね。この二つの大会は私を成長させてくれましたよ。世界のレベルを知って練習に励みましたから。またジーン・サラゼンが司会するシェル石油のワンダフル・ワールド・オブ・ゴルフに出演して世界的な選手と戦ったり、来日した(ジャック)ニクラスや(アーノルド)パーマーといったビッグプレーヤーと対戦したことは、私の力が認められたという意味で、いい思い出ですよ。
――そうですね。では次回もまた。
陳清波
ちん・せいは。1931年生まれ。台湾出身。マスターズ6回連続出場など60年代に世界で日本で大活躍。「陳清波のモダンゴルフ」で多くのファンを生み出し、日本のゴルフ界をリードしてきた
月刊ゴルフダイジェスト2022年2月号より