【世界基準を追いかけろ】Vol.52 日米のコースの違いは「フェアウェイの傾斜」と「グリーンの硬さ」
TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe
松山英樹のコーチを務める目澤秀憲、松田鈴英のコーチを務める黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回は日本と海外のコースに求められる技術の違いについて話してくれた。
GD プロが使う高精度な弾道計測器はトラックマン、フライトスコープ、GCクワッドの3つがありますが、最近の日本ツアーでは何が人気でしょう?
目澤 河本結プロは、最近女子ツアーではフライトスコープを買うプロが多いみたいだと言っていましたね。
GD アメリカのようにトラックマンかフライトスコープとGCクワッドの2台を併用するプロは、まだ日本では少ないですか。
黒宮 そうですね。でもそれは日本のコースがそこまで求めていないとも言えます。例えば全米女子オープン開催コースのオリンピッククラブは、フェアウェイに20%もの傾斜がいたるところにあるんです。ですから、切実にDプレーン理論(※1)の理解が必要になるなと思いましたね。自分のスピンアクシス(※2)を傾斜に対してぶつける作業が必要になる。でも、日本のゴルフ場ってフェアウェイの傾斜がそこまであるところがあまりないじゃないですか。
GD 関西の山岳コースなんかは傾斜が強いところもありますが、ちょっとニュアンスが違いますしね。
黒宮 例えばコースに一定の方向から吹く風があって、コースの中にその風向きに対して同じ方向に傾斜を造れば、一瞬でコースって難しくなるんですよ。オリンピッククラブにはそういう状況がいっぱいありました。そのなかでやっているから、あれほどレベルの高い選手でもスウィングを見失う。だから弾道計測器が必要になると思うんですよね。でも日本ではそういうコースが少ないから、トラックマンやGCクワッドも必要ない、となるわけじゃないですか。
GD 目澤さんどう思いますか?
目澤 そう思いますね。この前、河本結プロと話をしたときに、6番アイアンで打つ距離のパー3で、彼女のショットは落ちてから2ヤードで止まった。でもあるプロは10ヤード転がったらしいんです。でもそのプロはロングパットを入れてきたと言います。グリーンのアンジュレーションも厳しくないですし、そうなると止まる球など要らない。日本だとなかなかショットの技術がスコアとリンクしないんです。
GD アメリカのセッティングだと、止まる球が打てないとスコアにならないわけですか。
目澤 止まらない球で勝負している選手はいないと思いますよ。今年の全米オープンが行われたトーリーパインズで止まらない球を打っていたら、ボールがどこまで行くか分からない。超トッププレーヤーの打つハイフェードの球でも、グリーン上でカーンと弾かれていましたからね。
GD そういうショット力が試されるフィールドだから、測定器が2種類必要になるわけですね。
目澤 ですから日本のツアーも、もっとグリーンを硬くしたほうがいいと思います。球が止まらなくなれば、2打目をフェアウェイから打つ重要性が高まり、そうなればショットについてもっとシビアに考えるようになると思います。
GD そうしたら、もっと精緻な自分のショットデータが欲しくなって、測定機器の充実が必要となる。今の米ツアーの選手たちと同じ状況になるわけですね。
(※1)Dプレーン理論……インパクト時のフェースディレクション(ダイナミックロフト)とクラブ軌道(アタックアングル)の線で形成される3角形の面をDプレーンという。フェース向きに対してスウィング軌道が左にズレていれば、Dプレーンは右に傾くのでスライスし、その逆だとフックする。(※2)スピン(回転)アクシス(軸)=ボールの回転軸のこと。スピンアクシスが傾くとボールは曲がる。弾道測定器で6度Rと表示されたら、ボールの回転軸は6度右に傾いているということになる
目澤秀憲
めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに就任
黒宮幹仁
くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。09年中部ジュニア優勝。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。松田鈴英、梅山知宏らを指導
週刊ゴルフダイジェスト2021年9月7日号より