【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.45 フェスキューは打てるけど、ヒースは打てない
PHOTO / Masaaki Nishimoto
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
2011年の全英シニアオープンのときのことです。ロンドンの右上(北東)にあるウォルトンヒースゴルフクラブで須貝(昇)さんと練習ラウンドを一緒にさせてもらいました。
場所はイングランドでも、コースは地面がめちゃ硬くて、コブもぎょうさんあって、風も強くて、スコットランドとあまり変わりません。ちょっとミスするとダメージは倍返しです。
ドローを打ってちょっとミスッて引っかけてしまうと、コブの傾斜と地面の硬さとで、ダブルでミスが増幅されてしまいます。倍返しどころか三倍返しやね。
須貝さんは、さすが全英シニアオープン(2002年)のチャンピオン。地面の硬さやコブの傾斜を上手く利用する攻め方が抜群なんです。
今の世界のゴルフは、大きなキャリーで上からグリーンに落として止めて攻める空中戦が多くなったけど、僕らのようなパワーがない人間にとっては、やっぱり大事なのは地上戦です。ほんまに須貝さんは地上戦が上手い。
イギリスのコースには、日本ではお目にかかれないラフがあります。フェスキューは日本のコースでもちらほら見られるひざ丈ぐらいの長い芝です。長いから難しそうに見えますけど、意外と隙間があって、結構打てます。
最近の日本のメジャーではグリーンまわりのラフをツルツルに刈り込んで、外れたら転がり落ちるセッティングがよくありますけど、昔はグリーンを外すともじゃもじゃのヘビーラフでした。フェスキューよりそっちのほうがなんぼも難しかった気がします。ボールの場所はわかっても、草が覆いかぶさって、アドレスするとボールが見えへんということもありました。
逆に打てそうで打てないのが、ちっちゃな松の木みたいなヒース(ヘザーともいう)です。
ボールが見えていて、ぜんぜん行けそうな感じなんです。日本人の力でも、6番アイアンでも打てそうなんやけど、打ったらとんでもない方向に行ってしまう。
「須貝さん、これどうやって打つんですかね?」って聞いたら、「サンドのグリップを思い切り強く握っておいて、チョンと出せ」と教えてくれはりました。
テレビで見ておると、その辺の難しさはなかなか伝わりません。風もそうです。シニアオープンから帰国してビデオを見直してみると、そよ風程度に見えるんです。つい「こんなんちゃうで」と言いたくなってしまいます。
「最近は空中戦が主やけど、パワーのない人間には地上戦が大事です」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年8月24・31日合併号より