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「脱力が大事」分かってはいるけどつい力んでしまう人へ。ブルース・リーに学ぶ力の正しい抜き方とは?

TEXT/Kenji Oba PHOTO/Yasuo Masuda
THANKS/オークラランドゴルフ練習場

ゴルフスウィングでは「脱力」が大事。そう頭で理解していても、いざドライバーを握るとつい力が入ってしまう。そんなゴルファー永遠の課題「脱力」を身につけるヒントが、あの世界的アクションスター、ブルース・リーの動きに隠されている、と横田英治プロは言う。いったいどういうことなのか。詳しく聞いてみた。

解説/横田英治


ツアー経験に基づく、理論的なアドバイスには定評がある。ドライバーからパターまで試打経験も豊富で最新のスウィング理論にも精通。女子プロの岸部桃子を指導している

「ジークンドー」に学ぶ
正しい脱力法とは

「飛ばしたいならブルース・リーに学べばいい」と真剣な表情で語るのは、少年時代から熱狂的なファンだった横田英治プロ。「アチョー」の叫び声で知られる武道家にしてアクションスター、ブルース・リー。彼が出演した『ドラゴンへの道』『燃えよドラゴン』などの映画にどハマりした人は多いはずだ。そんなブルース・リーの動きがゴルフにどうつながるのか? 横田プロはこう語る。

「ブルース・リーが考案した『ジークンドー』という武術があるんです。1秒間に敵の急所を4カ所突くことができるなど、最速、最短で相手を倒す総合武術です。その動きにヒントがあるんです」

実は日本に石井東吾氏というジークンドー直系の弟子がいる。ネット上には『瞬殺で3人を倒す戦い方』などの動画がアップされていて、横田プロもその映像からヒントを得たというのだ。

「それが“脱力”です。ジークンドーの代名詞は素早い動きなのですが、その速さを生むのが脱力なんです。脱力の重要性はゴルフレッスンでも盛んに言われており、新鮮さを感じない人もいるでしょう。ですがジークンドーの動きから考えると大きな誤解や間違った脱力と言わざるをえません」

脱力というと、ほとんどのゴルファーは全身を緩めてしまうが、脱力と緩みはまったく別物だ。

「スウィングはクラブがなければ、腕を振る動きでしかありません。そして脱力する場所はあくまでも腕。指から肩までなのです。逆にいえば、腕以外は力を入れてもいい。大切なのは力を抜く場所、入れる場所を知ること。ジークンドーの教えに『水になれ』というのがありますが、流れるような動きこそが、飛ばしのスウィングに大きく影響するんです」

脱力とは全身の力を抜くことではない

脱力はレッスンでも馴染みのテーマだが、多くのアマチュアは“全身の緩み”と勘違いしている。力を抜く(脱力)場所は腕だけで、入れる(出力)場所は体幹や足なのだ。この脱力の感覚を身につけてこそ、最速の腕振り(スウィング)が可能になる!

ブルース・リーは拳を握らない
ゴルフも強く握ったらアウト

では、ブルース・リーの動きから飛距離アップへの道、名付けて『ドラコンへの道』をスタート。「ブルース・リーのアクションシーンを見ると絶対に拳は握っていません。実際、相手にパンチが入る瞬間は握りますが、握らないことでスピードが増すんです。ゴルフはクラブを握りますが、その力を最小限、つまり可能な限り脱力することは、どんなゴルファーでもできるはずです」と横田プロは言う。

ジークンドーでは脱力を知るための初歩として、次のような稽古から始めるという。腕を真上に上げたら、腕の重さだけで腰の高さにあるミットを打ち抜くのだ。

「両腕を水平に持ち上げ、腕の力をすべて抜く。すると上げた腕が最速で落ちます。ふっと力を抜いた瞬間、ひじが落ち、さらに前腕、手がスパンッと落ちる。このスピードは力で出せるものではありません」

重力を使えば最速が体感できる

両腕を水平に持ち上げる。その状態で腕から一気に力を抜くと、腕は重力に従い最速で落下していく。落下したとき、手のひらが太ももを叩く音がするほどだ。脱力によるスピードを実感してみよう

拳を目いっぱいの力で握り、同じ動きをやってみよう。腕の落ちる速度は遅くなるはずだ。ジークンドーでは腕がフニャフニャな状態(脱力)が理想であり、インパクトでも力は入れないのだ。

「両腕の重さは男性なら10キロ以上あります。その重さを使えれば、誰もが簡単に最速の動きを体感できるんです」と横田プロ。ジークンドーでは、最初に重力を用いた下方向への動きを学び、それを横方向に変えていくという。

脱力による腕の落下をゴルフに生かすにはどうすればいいか? 横田プロによるとゴルフで力みやすい局面が2つあるという。それがアドレスとトップだ。つまりここで脱力の感覚がつかめれば、最速の動きに大きく近づけるのだ。

「アドレスで大事なのは、腕を鉛直に垂らすこと。そのために前傾姿勢を取りますが、ひざの角度や股関節の入れ方など、小難しいことを考えがち。ですが、考えるべきは2つ。しっかり母趾球に乗ることと、腰高を維持すること」

アドレスで母趾球に乗るだけで必要な前傾が作れるし、腰高であれば、ひざ関節や股関節にゆとりが生まれ、動きやすくなるのだ。

母趾球に乗ると自然に前傾が決まる

脱力したアドレスを作るには、母趾球にしっかり乗ること。自然な前傾姿勢はそれによって決まる。やや腰高のアドレスを意識することで、ひざ関節や股関節に余裕が生まれ、動きもスムーズになる。これが出力に効果を発揮する

トップはアマチュアが最もミスしやすい局面。バックスウィングは重力に逆らうため、力が入りやすいからだが、プロとアマで大きく異なると横田プロは指摘。

「プロのトップは脱力ができているので支えてみると重さを感じるはずです。一方、アマチュアのトップは力が入っていますから支えても軽いんです。ここに大きな差があります。トップで力が入れば、腕は落下させられないんです。それが速く振れない大きな要因といえます」と横田プロ。

「アドレス」と「トップ」で
いかに力を抜けるかがカギ

プロの構えは肩の真下に腕が垂れる

横田プロが指導する岸部桃子プロのアドレスを見ると腕が鉛直=肩の真下に腕が垂れさがっているのがわかる。重力に逆らわない腕のポジションなら力感をゼロにすることも簡単。ただゴルフではクラブを握るため、グリップは最小限の力に留める

プロのトップは「重い」

岸部プロのトップは柔らかく理想的だ。ここで力めば、腕の重さはなくなり、重力を生かせない。バックスウィングは重力に逆らうため、どうしても力みやすい。いかに脱力するかがポイントなのだ

トップが重い=脱力
トップが軽い=力み

プロのトップが「重い」のは脱力しているからだ。対してアマチュアのトップが「軽い」のは力んでいるから。アマチュアはトップで止めたり、トップから切り返しで力を入れるといった動きになりがち。それでは重力を生かせない

足を動かすほど腕の脱力が生きる

名作『燃えよドラゴン』でブルース・リーが屈強な欧米人と戦うシーンがある。最初は力の勝負に負けてしまうが、そこで戦い方を変える。ピョンピョンと跳ねるように動く、ブルース・リーを象徴するステップだ。ここに脱力を生かす、力の使い方のヒントがあると、横田プロは熱く語る。

「ブルース・リーの軽やかなステップから、目にも止まらぬ速さでパンチを繰り出す、あのシーン。足を使うことで腕の脱力が生かされ、その結果、最速のパンチが生まれたわけです」

これをゴルフに置き換えると下半身リード、足を使えというレッスンになるのだが、足はどのように使えばいいのか?

「重力に逆らうバックスウィングでは、足を使ってトップまで腕を持ち上げます。そして切り返しでは腕を落下させ、そのエネルギーをターゲット方向に変換し、腕を放り投げるイメージです。スウィングは突き詰めれば、ターゲットに向かって腕を振るだけの行為です。腕以外の足や体幹は積極的に使いましょう。重力で落下した腕を下から横へ、そんなイメージです。要は足や体幹を使って脱力した腕を振れば、最速のスウィングが手に入るのです。ブルース・リーの名言『考えるな、感じろ』ではないですが、腕を振るフットワークに型や理屈はないんです」

横田プロは、腕の脱力とフットワークを理想的に使っているのがJ・スピースとT・ワトソンだという。2人ともトップでひじが曲がっているし、足もかなり動いているのがわかる。腕の脱力、そして足や体幹の出力、それが飛ばしの理想的な組み合わせなのだ。

ジョーダン・スピース

スピースとワトソンに共通するのは①積極的にフットワーク(下半身)を使い、②腕が脱力している、の2点だ。このコンビネーションでヘッドスピードが上がる

トム・ワトソン

腕の脱力感はひじでわかる。ひじが伸びている場合、少なからず力が入っている証拠といえる。ワトソン、スピースのひじはゆとりがあり、脱力を維持できている

【フットワークの正しい使い方1】

足を使って腕を放り投げるイメージ

「足を使え」の真の意味は、下方向に落下した腕を横方向、つまりターゲットに向かって放り投げること。ひざや股関節のねじれなど、部分的なことにとらわれず、腕を投げるイメージのみで足を使おう。

【フットワークの正しい使い方2】

踏み込まずに地面を蹴る

踏み込む意識ではエネルギーは下に逃げてしまう。地面を蹴ることで力のベクトルを横方向に変換することができるのだ。ジークンドーでも踏み込むのではなく、蹴る動きで自身の体重をパンチに乗せる。

【フットワークの正しい使い方3】

体重移動はダイナミックに

ダイナミックに足を使うことで重力に逆らったバックスウィングでも腕がスムーズに上げられる。いわゆる手上げの防止だ。ダウンスウィングでも積極的に足を使い、右から左へ体重移動させよう。

【フットワークの正しい使い方4】

落下の力をターゲットへ

落下エネルギーにフットワークを組み合わせれば完成だ。トップから腕が真下へ落下するため、軌道は自然にインサイドアウトになる。ヘッドスピードアップ、インサイドアタックで飛距離が伸びるのだ。

週刊ゴルフダイジェスト2021年7月27日号より