いざ全米プロ! 松山英樹は難コースをどう制するか? 残りの3メジャーを一挙予習
TEXT/Masato Ideshima
PHOTO/Taku Miyamoto、Tadashi Anezaki、Takanori Miki
ILLUST/Sadahiro Abiko
マスターズ優勝という日本人初の偉業を成し遂げた松山英樹。今年はあと3つのメジャーが開催予定だが、どんな戦いになるのか。メジャーコースに詳しい3人のプロに予測してもらった
解説/佐藤信人
大学時代をアメリカで過ごし、海外経験が豊富。解説者として活躍しているが、PGAツアーに精通するデータマニアでもある
解説/レックス倉本
プロゴルファー、解説者。米国に在住し、世界のゴルフ事情に精通している。PGAツアーの現地レポーターとしても活躍
解説/羽川豊
現役時代から世界での経験が豊富で、コースへの造詣も深い。解説など多岐にわたって活躍している
●全米プロゴルフ選手権
5月20~23日(キアワアイランドGR・オーシャンC)
●全米オープンゴルフ選手権
6月17~20日(トーリーパインズGC)
●全英オープンゴルフ選手権
7月15~18日(ロイヤルセントジョージズGC)
「風が強い海沿いのコースは
アイアン巧者が有利」(佐藤)
松山英樹、2つ目のメジャー制覇へ! がぜん期待が高まる残りのメジャーだが、マスターズとは違う難しさがある3つの大会に関して、本来の持ち味が発揮されたなら、勝つ可能性は十分にあると佐藤信人プロは言う。
「松山選手ならどのメジャーにも勝つ可能性があると以前から話をしてきました。それは7年連続で「SG:アプローチ・ザ・グリーン」(ショット貢献度)でトップ10に入っていることからも言えます。今季に関しては数値的にはまだ上がっていませんが、マスターズを機に本来の持ち味が発揮される可能性は十分にありますし、スタッツの傾向だけを見るとSG:アプローチ・ザ・グリーン以外のスタッツも例年と同じ傾向と言えます。スタッツは、あくまで偏差値のようなもので、マスターズで勝った勢いで数字が良くなるかもしれませんし、逆にマスターズ疲れでそこまで数字が上がってこない可能性もあります。現状の数字だけで今後どのようなプレーをするかを予測するのは難しいことですが、これまでの傾向から見れば残りのメジャーで勝つ可能性は十分にあると思います」
SG(ストロークゲインド)を見れば
選手の「強み」が一目瞭然
SG(ストローク・ゲインド)とは、技術分野ごとのスキルレベルを示す接頭語のようなもの。たとえば「SG:パッティング」の数値は選手のパットの実力を示す指標となる。数値が高ければ高いほど、その技術分野のスコアに対する貢献度が高いことになる。
5月19日現在の松山英樹のSGスタッツ
SG:オフ・ザ・ティー | .174 | 64位 |
SG:アプローチ・ザ・グリーン | .540 | 26位 |
SG:アラウンド・ザ・グリーン | .261 | 35位 |
SG:パッティング | -.296 | 160位 |
SG:アプローチ・ザ・グリーン……エッジから30Y以上のグリーンを狙うショットの貢献度
SG:アラウンド・ザ・グリーン……エッジから30Y以内のアプローチの貢献度
SG:パッティング……パットの貢献度
各項目の数値で判断するのは難しいので、順位を見ることで、ツアーの中でどのくらいなのかを相対的に判断できる。30位以内ならトップクラス。100~110位が平均的といえる
「アプローチ・ザ・グリーン」と「アラウンド・ザ・グリーン」の順位が高いことから、精度の高いアイアンショットと巧みなアプローチでスコアを作っていることが分かる。
「SG:アプローチ・ザ・グリーン」が7年連続でトップ10!
2014年 | 1.022 | 3位 |
2015年 | .632 | 9位 |
2016年 | .774 | 3位 |
2017年 | .758 | 5位 |
2018年 | .727 | 6位 |
2019年 | .759 | 5位 |
2020年 | .690 | 5位 |
松山の最新スタッツはPGAツアー公式サイトをチェック!
全米プロゴルフ選手権
5月20~23日(キアワアイランドGR・オーシャンC)
「全ホールから大西洋が見渡せる
海風をまともに受けるコースです」(レックス)
まずは全米プロゴルフ選手権。開催コースに詳しいレックス倉本プロは、風との戦いになるだけに松山が優勝候補の一人に挙げられることは間違いないと言う。
「アメリカでもっとも難しいリンクスと言われているコースで、長さもさることながらすべてのホールから大西洋が見渡せる設計。すなわち海風をまともに受けるコースなので、風対策が一番の課題ということ。2012年に全米プロがここで開催された時は8月でしたが今回は5月ということで、乾いたコースは硬く、強い風が予測されます。ただ、松山選手のショット力とショートゲームがあれば、優勝争いに絡んでくることは十分に考えられます」
メジャーに勝つには心技体がそろうことが条件になるだけに、マスターズ後の疲れがどこまで回復しているかが一つの鍵になると倉本プロは懸念材料として挙げている。
「近年では、マスターズでメジャー初優勝を飾ったセルヒオ・ガルシアやダニー・ウィレットは調子を取り戻すのに時間がかかりました。目澤秀憲コーチの加入で技術的な裏付けが頭の中で整理できているので調子を取り戻すのはそれほど時間がかからないと思いますが、メンタル面では今までの疲れが一気に出ているのではないかと心配な部分です。そこをクリアできれば優勝するチャンスはあるのではないでしょうか」
KEY HOLE
17番・223Y・Par3
世界のトップも慄く風と池
「優勝争いで見逃せないのが、風の影響をもろに受けるこのホール。風向き、強さ次第では8番手もの違いが出ると言われている難ホールです」(レックス)
松山英樹の全米プロ成績
13年 | 19位T | オークヒルCC |
14年 | 35位T | バルハラGC |
15年 | 37位T | ウィスリングストレイツ |
16年 | 4位T | バルタスロールGC |
17年 | 5位T | クエイルホローC |
18年 | 35位T | ベルリーブCC |
19年 | 16位T | ベスページ ブラックC |
20年 | 22位T | TPC ハーディング パーク |
同じキアワアイランドで開催された
2012年大会はマキロイが圧勝!
超難コースと言われていたキアワアイランドを当時23歳のマキロイが2位に8打差をつける圧勝で、2つ目のメジャータイトルを手にした。2日目には全米プロ史上もっとも悪い平均スコア78.086を記録するなど、風次第でかなり難度が増すが、そんななかでマキロイは最終日も66をマークし、若さと勢いでモンスターコースをねじ伏せた。このときの2位はデビッド・リン、3位がジャスティン・ローズ。日本勢は石川遼が59位タイで、谷口徹が68位タイだった。今年は8月開催だった12年よりハードなコースセッティングが予想される
●全米オープンゴルフ選手権
6月17~20日(トーリーパインズGC)
「全米OPのセッティングは松山向き
鍵は『ポアナ芝』への対応力」(佐藤)
トーリーパインズGCでの開催は2008年以来2度目。08年はタイガー・ウッズがプレーオフの末、劇的な優勝を手にしたが、今年はどのような試合展開が予想されるのだろうか。佐藤信人プロに聞いた。
「ここはファーマーズと全米オープンを合わせて通算8勝している、タイガーが得意としているコースで有名です。タイガーといえばSG:アプローチ・ザ・グリーンが優れたボールストライカー。松山選手も同じタイプなので、チャンスがあるように思います。ファーマーズは毎年1月開催ですが、全米オープンは6月と、かなり気候に違いがあります。加えて全米オープン仕様のセッティングになるため、フェアウェイが狭くなりラフも当然深く、まるで別のコースのように感じるかもしれません」
ポアナ芝が選手たちを苦しめる。時期的にグリーンが硬くなるが、USGAがどこまでスピードを上げてくるかも見もの
「ただ、USGAの厳しいセッティングは松山選手にとっては悪いことではありません。タフになればなるほど、アイアンの上手さが際立ってくるぶん、優位に働く部分があるように思います。またフェアウェイが硬くなるので、飛ぶ選手にとっての優位性は薄れます。距離が長いのは間違いないですが、普段のトーリーパインズよりも飛ばさなきゃダメということにはなりません。かつてジャック・ニクラスがセカンドショットコースと表現していたように、2打目の比重が大きくなることは間違いないので、持ち味を発揮してくれれば面白くなると思います」。
ボールの転がりがイレギュラーなポアナ芝のグリーンをUSGAがどう仕上げるのかは未知数だが、マスターズでのパッティングの好調が維持できていれば大いに期待できる。
KEY HOLE
18番・570Y・Par5
2オン可能だが奥に外すと難しい
「飛距離のある選手なら1Wのティーショットをフェアウェイに置くことができれば、5W前後のクラブでグリーンには届きます。しかし、奥に外すとしびれるアプローチを強いられます」(佐藤)
横に2段となっているグリーンは縦幅26Y、横幅30Y。手前はすべて池に吸い込まれ、安易に奥へ逃げたプレーヤーには、超難度のアプローチが待ち受ける
松山英樹の全米オープン成績
2013年 | 10位T | メリオンGC |
2014年 | 35位T | パインハースト NO.2 |
2015年 | 18位T | チェンバーズベイGC |
2016年 | 予選落ち | オークモントCC |
2017年 | 2位T | エリンヒルズGC |
2018年 | 16位T | シネコック・ヒルズGC |
2019年 | 21位T | ペブルビーチGL |
2020年 | 17位T | ウィングドフットGC |
●全英オープンゴルフ選手権
7月15~18日(ロイヤルセントジョージズGC)
「風対応はピカイチ!
あとは正直、運次第」(羽川)
全英オープンの開催コースとしてはもっとも南部に位置するロイヤルセントジョージズGC。どのようなプレーが要求されるのかを羽川豊プロに聞いた。
「このコースはドーバー海峡からの風が強いだけではなく、スコットランドと違いホールの方角が目まぐるしく変わるため、風を制することが第一。ポットバンカーが効いているのでショートゲーム力も要求されます。松山選手が初めて全英に挑戦したミュアフィールドでの戦いを現地で見ましたが、ボールの高さをコントロールする風への対応力の高さが印象的でした。ショット力は申し分ないですし、近年はアプローチの引き出しが増えているので大きな武器になるはずです」
KEY HOLE
15番・493Y・Par4
ティーショットの落としどころにバンカーが点在
「距離のあるパー4。小さなグリーンの手前には3つのバンカーがフェアウェイを横切っており、硬く締まったグリーンへの転がしは難しくキャリーで攻めなければならない」(羽川)
松山英樹の全英オープン成績
2013年 | 6位T | ミュアフィールド |
2014年 | 39位T | ロイヤルリバプールGC |
2015年 | 18位T | セントアンドリュース オールドC |
2016年 | 予選落ち | ロイヤルトゥルーンGC |
2017年 | 14位T | ロイヤルバークデールGC |
2018年 | 予選落ち | カーヌスティGL |
2019年 | 予選落ち | ロイヤルポートラッシュGC |
2020年 | 中止 | ロイヤルセントジョージズGC |
月刊ゴルフダイジェスト2021年7月号より