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【名手の名言】樋口久子「順位を示すボードを試合中見ないと心に誓ったんです」

レジェンドと呼ばれるゴルフの名手たちは、その言葉にも重みがある。ゴルフに限らず、仕事や人生におけるヒントが詰まった「名手の名言」。今回は日本初のメジャー覇者・樋口久子の言葉をご紹介!


順位を示すボードを
試合中見ないと心に誓ったんです

樋口久子


現在では多くの女子選手が米国に渡り、世界トップクラスの選手たちとしのぎを削っているが、樋口久子は、日本人女子として初めてLPGAのメジャータイトルを獲ったゴルファーである。そのメジャータイトルとは1977年の全米女子プロ選手権。

最終日、樋口はパット・ブラッドレーと首位で並んでスタートしたが、1打差に5人が並んでいて大混戦が予想された。その時、樋口は勝てるなどとは露とも思っていなかったという。

前半の9ホールが終わって混戦から抜け出したのは、ブラッドレー。2打差をつけた。しかしここから彼女は崩れていく。代わって樋口が伸びていく。アウトは34。10番、12番とボギーが続いたが、13番、14番でバーディが来て息を吹き返す。この時、樋口は思った。

「他のプレーヤーのことはどうでもいい。ただ悔いの残らない自分だけのゲームをしよう。そうだ、それにはボードを見ないことだ」

しかし、15番でパットラインを読んでいるとき、カメラマンが動き、それにつられて目をやると、ボードが目に映ったのだ。なんと自分の名前がいちばん上に載っているではないか! それでも樋口に動揺はなかったという。その時にはもう“自分のゴルフをする”という決意が全身にいきわたっていたのだろう。結局、2位に3打差をつける圧勝だった。

夕食時に日本の特派員たちが集まってお祝いしてくれたのだが、その時のエピソードもまた時代を反映して微笑ましい。当時のサウスカロライナ州では、日曜日に酒を売るのが禁止されていたため、隣の州からワインを買ってきて、コーヒーカップで乾杯したのだという。

このエピソードには、世界の大舞台でプレッシャーに打ち勝ち、自分との闘いを制したひとりの日本人女性の姿が凝縮されている。順位よりも「自分のゴルフ」に集中する姿勢は、競技者としての本質を突いており、今なお多くのアスリートにとって学ぶべき姿だ。樋口の名言は、結果を恐れず、自分自身に正直に向き合うことの大切さを私たちに教えてくれる。

■樋口久子(1945年~)

ひぐち・ひさこ。高校1年まで陸上競技の選手だったが、姉が務めていた砧ゴルフ場でゴルフと出会い、卒業後、大御所・中村寅吉門下生に。67年第1回女子プロテストに合格。翌年、日本女子プロに22歳で勝って以来、国内で69勝。メジャーの全米女子プロを含む海外3勝を挙げ、国内と合わせて72勝の金字塔を打ち立てた。03年、アジア人初の世界ゴルフ殿堂入りを果たす。

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