【陳さんとまわろう!】Vol.257 フェードを覚えた東京GCの2番ホール
東京ゴルフ倶楽部にかつて所属していた陳さん。そこで研鑽した技術について語ってくれた。
TEXT/Ken Tsukada ILLUST/Takashi Matsumoto PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/河口湖CC、久我山ゴルフ
ボール位置を変えて
球筋を変化させた
――かつて所属した東京ゴルフ倶楽部の2番ホール(パー4)で、それまでドローやフックボールしか打てなかった陳さんがスライスないしフェードボールが打てるようになったという話の続き。
陳さん この2番ホールではね、ティーショットを打つと必ずといっていいほど左のバンカーにボールが入るわけよ。距離は220Yから250Yぐらいの場所ですから、ちょうど私の飛距離の所にあるんだねえ。それを越そうとしてボールを飛ばすとかえって左に曲がってバンカーに入るわけ。いくらフック系のボールを打つ私でも回るたびに打ち込むというのは頭にくるじゃない。
そこであるとき、試してみたんだ。左に曲がらないボールだよ。その頃の私は、どうやればどういうボールが出るかだいたいわかっていましたからね。ボールをいつもより中に入れて打つとスライスが出るとか、ティーの高さを低くするとスライスが出やすいとかね。
――陳さんはカナダカップ(現ワールドカップ)に何度も出て、世界中のプレーヤーのスウィングを見てはそれを頭に描きながら練習を重ね、技術の習得に励んでいましたからね。
陳さん そうよ。そこでやってみたわけ。結果がどうなったかわかる? ちゃんと打てたんだ。どうやったかというと、まず左のバンカーに向いて立つわけよ。これでそのままアドレスをとっていつものように打ったらボールはバンカーの左に飛ぶんだ。そうでしょ。だからボールをいつもの左足かかとの線上から右に置いて、でもそれだけじゃ足りないと思ってティーの高さも低くして打ったわけよ。そうしたら見事だよ。バンカー右のフェアウェイに飛んで行くじゃない。うれしかったよ。
――思った通りのボールが出て、2番ホールをやっと攻略できたと。
陳さん そう、やっと。今でもこのホールに立つと60年ほど前に苦労したことを思い出すんだねえ。また、苦労した甲斐があったなってね。この立ち方、私のやり方はそんなに大きな変化じゃないから見た目にはっきりわからないんだ。だから一緒に回るプロはドロー打ちの陳清波がフェードを打ったけど、どうなってるんだって不思議に思うわけ。でも私は教えないんだ。だって、賞金争いしている相手なんだからさ(笑)、苦労して手にした秘密なんか教えられませんよ。
――それなのに私たちには教えてくれるんですね。
陳さん そうよ。あなたたちとは賞金を争っていないし、教えても私に実害がないものな(笑)。この、フェアウェイの左を向いて打つ構えは、対角線に狙いをつけるということですがね、この狙い方をするときは必ずボールの位置を中に入れることを忘れちゃいけないんだ。中に入れるからインパクトでクラブフェースが右を向いた状態でボールをヒットするわけでね、これがスライスを出すことになるわけよ。
――ボールはどれぐらい中に入れるものですか。
陳さん それが問題。いつもより5cm中に入れるか、10cm中に入れるか。 あるいは15cmかね。中に入れるほど右にボールが飛びますからね。一遍に15cmも中に入れるのはものすごく勇気がいるよ。これはフェアウェイの広さを考えて、それから大きな違和感を覚えない程度にすればいいです。よく練習してね。ゴルフ場で、陳清波のこのやり方をぶっつけ本番でやって失敗しても、私は責任持てないからな(笑)。
陳清波
ちん・せいは。1931年生まれ。台湾出身。マスターズ6回連続出場など60年代に世界で日本で大活躍。「陳清波のモダンゴルフ」で多くのファンを生み出し、日本のゴルフ界をリードしてきた
月刊ゴルフダイジェスト2025年2月号より