【名手の名言】トミー・ボルト「世界のなかで一番の嘘つきは、ゴルフをただ健康のためにやっていると言うやつだ」
レジェンドと呼ばれるゴルフの名手たちは、その言葉にも重みがある。ゴルフに限らず、仕事や人生におけるヒントが詰まった「名手の名言」。今回はツアー15勝、殿堂入りも果たしているトミー・ボルトの言葉を2つご紹介!
世界のなかで一番の嘘つきは
ゴルフをただ健康のために
やっていると言うやつだ
トミー・ボルト
本当は上手くなりたいのだが、それを心のうち深く隠して、さもゴルフは体にいいから仕方なくやっているのだと、自分からわざわざ言い訳のように言うやつがいる。
もちろん最初は健康のために、散歩がてら歩けるからということで始める人もいるだろう。
しかし、そんな人は自分から言い訳のように言いはしないし、またコースへ出始め、100を切るぐらいの腕前になりはじめると、次は90台、いや80台へと病膏肓に入ることがほとんどだ。
ゴルフにはそんな魔性が秘められている。
こんな嗜虐に満ちた言葉を残したのはトミー・ボルト。『瞬間湯沸かし器』として知られ、ミスをするとクラブを叩きつけるなど日常茶飯事だった。
また電光石火のごとく早いスウィングでも知られ、「早く打てば悩む時間がなくなってミスも少なくなる」と涼しい顔をしていた。
時の王者、ベン・ホーガンも
「ボルトの体に感情を抑える別の頭をねじ込むことができたら、彼は史上もっとも偉大なプレーヤーになっていたはずだ」 と評したという。
怒ったと思った瞬間
おれのゴルフは壊れている
トミー・ボルト
トミー・ボルトのニックネームは「トミー・サンダーボルト」、つまりは雷。“噴火屋”ともいわれた。日本流にいうなら“瞬間湯沸かし器”。どれだけボルトの怒りがすごかったか、エピソードを2つ紹介したい。
あるトーナメントのパー3での出来事。4番ウッドで打った球はバックスピンで戻り、手前の池の餌食に。アドレナリンが噴き出たのか、打ち直しの球もさらにバックスピンがかかり、池へ。
さらにさらに次の5打目もトップして池。顔を真っ赤にしたボルトは、黙って4番ウッドをキャディバッグにおさめ、キャディバッグとともに池の中へ放り込んでしまった。
話には続きがある。次のティーイングエリアに向かうとき、さっきの池の中に腰までつかり、キャディバッグを引き上げたのだが、同伴競技者の「トミーも大人になったよな……」の声に、キャディバッグの中からクルマのキーだけ抜き取り、再びそのバッグを池の中に叩きこんだのだ。そして、黙ってクラブハウスへと向かったのである。
もうひとつ。1953年、ラスベガスで行なわれた試合。賭博の街らしく、市内ではラウンド終了後にトミーのクラブが何本残っているかの賭けが公募された。ちなみにこのラウンドでは彼のクラブは奇跡的にも14本生き延びたのだが、そのことがニュースになったのである。
先の事件の後、米ツアーでは「トミー・ボルト法」というルールができて、故意にクラブを破損した場合には罰金を課すことになった。このルールは1960年まで採用された。
もし、ボルトが怒りのためにゴルフを壊さなかったら、ボルトとは正反対の性格でアイスマンといわれたベン・ホーガンがごとく、偉大な選手になったに違いないのだが。
■トミー・ボルト(1916~2008年)
米オクラホマ州生まれ。ゴルフはキャディをしながら覚える。第二次世界大戦では軍に所属。退役してから建設業に従事したのち、32歳でPGAツアーに参加。ツアーでは15勝をマーク。圧巻は51年の全米オープン。ボルト40歳。最終日は35度をこす猛暑のなか、36ホールが行われたが、ゲーリー・プレーヤーに4打差をつけてメジャー勝利。短気な性格として知られ、『瞬間湯沸かし器』『噴火屋』などのニックネームがあった。02年ゴルフ殿堂入りも果たした。