【競技ゴルファー・タニシゲ】Vol.6 データ計測で見えた“パットの距離感”の盲点
野球の現役時代、1試合の配球をすべて記憶してデータの蓄積をし、リードに生かしていた谷繁。それがゴルフになるとフィーリング重視に。そのフィーリングは確かに人並み以上ではあるが、日本ミッドアマ出場を目指し、感覚+データの“ニュー谷繁”に進化する。
PHOTO/Hiroaki Arihara THANKS/六甲国際GC
パッティングで
打ち出し角を測られる
谷繁 最初に受けたアイアンのレッスンで「スウィングプレーンを左に向けて」と言われてびっくりしました。そんなこと考えたことがなかったから。
青木 目からうろことおっしゃっていましたね。
谷繁 それがパッティングのレッスンのときも同じようにうろこが落ちちゃって……。もともとパッティングは好きなほう。下りのフックラインこそ苦手ですが、さほど問題視していませんでした。
青木 確かに十分お上手なレベルです。ただ「ミスは出ていそうだな」とも思っていました。そこで今回はパッティング解析センサー「CAPTO」を使い、インパクト時のフェースの向き、シャフトの傾き、クラブの軌道、打ち出しの角度などのデータを取って分析してみました。
谷繁 1球目、普段通りの打ち方でしたが、ボールはピンにかなり寄って自分ではナイスパットだと思いました。でも、データを見た青木さんから「谷繁さん、距離感は大丈夫ですか?」って言われて「ええっ!?」ってなった(笑)。あんなに寄っていたのに、距離感に問題あるの? って。
青木 シャフトの傾き、クラブの軌道はほぼ完璧でした。ただ、フェースの向きは0.4度閉じていました。あと一番の問題は、打ち出しの角度。ほぼゼロだったんです。これだと、引っかけてボールが滑っていく感じになります。ボールが転がるのではなく、滑る。
谷繁 パッティングの打ち出し角度って考えたことがなかったです。でも、グリーン上でもボールは芝に沈んでいる。そこから脱出させるために打ち出し角度が必要だと説明を受けたら「なるほど」と思いました。
青木 谷繁さんのパッティングはシャフトが全然動いていませんでした。そーっと引いてそーっと打つ、みたいな感じで。
谷繁 だってそう意識してたから(笑)。ヘッドを平行に動かすのがいいと思っていました。
青木 「ヘッドを真っすぐ引いて、真っすぐ出す」と教えていた時代もありますからね。でも、パターは振り子運動。だから打ち出しに角度が要るんですよ。
谷繁 振り子を意識した途端、ボールが芯に当たったのを感じました。音が違いましたもん。
青木 トーン、トンと2バウンドして、その後、ボールに順回転がかかりましたよね。数字で見てもフェースの閉じが減り、打ち出し角度が出ていました。エネルギーロスが減ったので距離感が作りやすくなりました。これまでもパッティングはお上手でしたけど、アイアンのときもそうだったように、器用な分、パッティングも手で調整しているところがあって、安定感に欠けていたんです。
テークバックより
フォロー幅は小さく
谷繁 あと「左右対称」の誤解。あれも大きかった。
青木 多くの人がボールのセンターを中心に、テークバックとフォローの左右対称を意識しますが、本当の中心はクラブとボールが接するところ。そこを中心に左右対称にすると、フォロー幅が従来より減ることになりましたよね。
谷繁 テークバックよりフォロー幅は小さく、なんですよね。そう言われて「トッププロのパットはそうだ!」とすぐ気づきました。タイガーのパッティングのフォローなんてすごく小さい。インパクトで止めるぐらいの感じですよね。
青木 谷繁さんはこれまでフォローを大きくして加速を出そうとしていたんですよね。振り子運動を意識して、フォローを小さく。これで加速しますし、順回転になります。
谷繁 もっと早く教えてほしかったなあ(笑)。しかも、パッティングの変更点は握り方の変更に比べたら違和感がなく、実践しやすい。コースでじゃんじゃんやります。
青木 数字から見える実態があります。データ、取ってみるものでしょう(笑)?
谷繁 野球では、例えば2021年の東京オリンピック準々決勝。日本はアメリカに延長10回タイブレークで辛勝したけれど、決勝で再びアメリカと相まみえたときは2-0の完封勝利でした。これは完全にデータのおかげ。準々決勝のデータも加えて洗い直し、完封勝利に結びつけたんです。フィジカルが恵まれない日本人でも、勤勉なデータ分析を活用すれば勝てるんです。
青木 野村克也さんの「ID野球」も有名ですよね。
谷繁 データの分析をフル活用したスタイルです。その申し子とされるのが古田敦也さんですが、打率3割を8回も達成しています。これは捕手として史上最多記録。ここぞという場面では、かなりの球種やコースにヤマを張っているようでした。ヤマを張るにはデータの蓄積が必要なのは言うまでもありません。古田さんは「ヤマが外れたら仕方ないと割り切った」と聞いています。ただ、古田さんの場合、ヤマが外れても打ち返す高い打撃技術があったのが何ともやっかいでしたけど(笑)。
青木 これからは谷繁流「IDゴルフ」といきますか。
谷繁 頑張ります!
パターに、解析センサー「CAPTO」を装着し、谷繁のパッティングを“丸裸”に。分析官・青木の目が光る
週刊ゴルフダイジェスト2024年4月16日号より
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