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なぜシェフラーはこんなに強いのか!? 識者4人が徹底解説<後編>「スウィングがいいから勝つのではなく、勝った者のスウィングがいい」

今年のマスターズチャンプ、スコッティ・シェフラーの勢いが止まらない。なぜこれほど強いのか、引き続き識者4人が徹底解説!

PHOTO/Blue Sky Photos

スコッティ・シェフラー 1996年生まれ、米ニュージャージー州出身の27歳

<解説>
レックス倉本……プロゴルファー/ゴルフ解説者。高校卒業し渡米。オールアメリカンにも選出
内藤雄士……日本プロゴルフ協会A級ティーチングプロ/解説者。レッスン、解説ともに人気
佐渡充高……ゴルフ解説者。新聞記者を経て渡米。18年間アメリカに在住しPGAツアーを取材
タケ小山……プロゴルファー/ゴルフ解説者。大学卒業後、プロゴルファーとして渡米。ラジオDJも

>>前編はこちら

LIVがシェフラーを誘わないワケ

シェフラーは2013年に全米ジュニアを制している、いわばエリートゴルファーだ。2019年にプロ転向後、米下部ツアーで2勝。レックス倉本は当時のシェフラーにインタビューしたという。シェフラーいわく「レギュラーツアーのほうが戦いやすい。こうした難しい設定では勝てる選手は限られている。だとしたら僕が勝つチャンスは十分にある、と。自信があったのでしょう」(倉本)。

シェフラーは敬虔なクリスチャンであり、性格は真面目そのものという。「生活態度も良く、ゴルフに向き合う姿勢も真摯。ゴルフはボールの跳ね方など、運に左右されることがある不公平なゲームとも言われますが、シェフラーはそんなことで一喜一憂しません。この、心を平らに保つ冷静さがシェフラーは際立っているように感じます」(小山)

抜群の成績を積み上げ、性格は真面目、技術はPGAツアーにムーブメントを起こすほどのシェフラーだが、タイガーに及ばないこともあるようだ。


「常に冷静で喜怒哀楽の少ないシェフラー。ただ、ツアーは興行、ショーという側面もあることから、人気という点では少し物足りないと思われているかもしれません。実際、LIVゴルフが勧誘しない大物がシェフラーだと聞きます」(小山)。ギャラリーへのアピールやパフォーマンスが淡泊であるがゆえ、やや地味な印象がぬぐえない。

シェフラーは、周囲に恵まれた人でもある。長年のコーチ、ランディ・スミスはシェフラーの独特のスウィングを直さなかったし、パットコーチのフィル・ケニオンは1ミリのズレを見抜く慧眼。“いい人”が集まってくるのは、本人が“いい人”だから。タイガーやパーマー、ニクラスらと比較され「カリスマ性に欠けるなどと言われることもありますが、実績を重ねるうち、自然とカリスマ性は醸成されていくと思います」(佐渡)。

いい人でスウィングは個性的。「いいスウィングというのは、なにも全部が○(マル)である必要はないと思うんです。それより絶対に×(バツ)が出ないスウィングがいいのではないでしょうか。そういう意味でシェフラーは絶対に逆球を出さない自信のあるスウィングです。強い秘密はそこにあります」(内藤)。「プロの世界ではスウィングがいいから勝つのではなく、勝った者のスウィングがいいのです」(小山)。これぞシェフラーの強さを表した評といえる。

米メディア&識者によるシェフラー評
「パットが入らなければ10位、入れば優勝だ」(タイガー・ウッズ)
「今、伝説を作ろうとしている男の一人。それがシェフラーだ」(米スポーツメディア「ESPN」)
「5戦4勝だと!? シェフラー、彼をもう誰も止められない」(米ゴルフメディア「GOLF DIGEST」)
「冗談みたいな離れ業を平気でやってのける」(佐渡充高)
「ミスをしても眉一つ動かさない冷静さ」(タケ小山)
「独特な体の動かし方だが、クラブの動きは美しい」(レックス倉本)
「完全無欠のフェードヒッター。シェフラーのスウィングは今やトレンド」(内藤雄士)

さらに深掘り!
専門家たちのディープな分析

佐渡充高
「パットコーチとのタッグで鬼に金棒」

試合に勝つにはいかにバーディを多く取ってボギーを少なくするかです。しかし、バーディを狙えばボギーのリスクも高まります。ところがシェフラーは今年、バーディ奪取率もボギー回避率も1位。このシェフラーのゴルフを支えているのは鉄壁のショット力です。加えて今年のアーノルド・パーマー招待の際、パッティングコーチがシェフラーはスタンスラインで右を向き、肩のラインは左を向いていると気づいたそうです。たった1ミリ程度のズレだったそうですが……。それを修正しアライメントを獲得。今や無双です。確かに人気という点はいまひとつかもしれませんが、かっての帝王ジャック・ニクラスがそうだったように、実績と共にオーラをまとうようになると思います。

タケ小山
「メンタルの安定はもはや才能と言える」

シェフラーは傍らから見ていて、自身のマインドコントロールが完璧に見えます。よっぽどメンタルが安定しているのでしょう。マスターズでもバーディをとっても喜ぶふうでなく、ミスをしても同じ。4日間、自分のプレースタイルを崩しませんでした。唯一、感情を表したのは72ホールが終わった瞬間ぐらいでしょう。しかもマスターズでも、プレーが終わっても最後まで練習場にいたそうです。その昔のアーノルド・パーマー、近くはタイガー・ウッズがゴルフをドラマチックにした“動”の人。一方、ジャック・ニクラスは“静”の人でした。しかし、ニクラスにはメジャー18勝の偉大な記録があります。となると、シェフラーはニクラスの足跡を追いかけるのでは? 偉大な記録に近づくことで人気も自然と上がるでしょう。技術面ではグレッグ・ノーマンも摺り足打法でした。再現性が低い打法という人もいますが、シェフラーは完璧に自分のものにしているようです。

レックス倉本
「ティーショット後にティーがほぼ動かない」

シェフラーの強さはフィールドプレーヤーとして“自分の感覚”を大切に育ててきて、今も磨き続けていることに尽きるのではないでしょうか。インパクトで右足を後方に引くなど、体の使い方は独特ですが、クラブの動きは実にきれいです。彼がティーショットを打った際、ティーがほとんど動きません。イメージ通りのところにクラブを戻している、再現性の高さの証拠でしょう。しかもどんな弾道でも打ち分けられる。飛んで曲がらず、しかも狙い通りに打てる。アドバンテージだらけです。レッドベター全盛からの20年近く、没個性の機械的なスウィングが主流になっていました。しかし、シェフラーのコーチによれば、彼は理論的な説明をしても打てないのですが、コーチが実際に打って見せるとすぐに打てるタイプだそうです。そうしたビジュアライズの感覚を大切に育った過程で、彼独特の感性、そして技術を磨いたのだと思います。

内藤雄士
「マスターズでの横綱相撲は圧巻」

最近、ローリー・マキロイがフェードを主体にしていて驚きました。その裏には、稀代のボールストライカーであり、フェードヒッターのシェフラーの存在があるのでは? 普通、フェードヒッターは引っかけを特に嫌がりますが、シェフラーは左がダメなホールでも自信を持って左から回す。技術に裏づけされた自信でしょう。右足を引きながらも上半身は回転し、しかも腕はインサイドに高く振り抜いている。それでいてビハインド・ザ・ボールで、しっかり頭を残す。フェースを返さないのもフェードのコントロールにつながる。多くのアマチュアが真似を試みても難しいでしょう。振り遅れる、球がつかまらない、アウトサイドインのドアスウィングという人は、最初から右足をクローズドにするのは練習法としてはアリかもしれません。

週刊ゴルフダイジェスト2024年6月4日号より