【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.149「カラスのカァ~は気になりますか?」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Masaaki Nishimoto
優勝後のコメントなんかで「周囲の声が聞こえなくなって、それでパターを打ったら入ってくれました」なんていうのがあるけど、あれってホンマなんでしょうか。
少なくとも僕なんかは、なんや足音がしてるとか、子どもがなんか言うてるとか、何か聞こえてても、優勝を決めるパット、打ってました。そんなもん、「ああなんか言うてんな」と思って打ったらええだけの話ですから。
そもそもゴルフのトーナメント会場が、クラシックのコンサート会場みたいに水を打ったようにシーンとなんかなるわけないんです。
ティーイングエリアやグリーン周りで「お静かに」のボードを出して、皆さんに促しても、30~40メートルくらい先で見とる人は小声でしゃべっとるし、その声が集まればザワザワとなるわけで、その程度のことは受け入れないといつまでたっても球なんか打てません。
そんなこというたら、バックスウィングしたときにカラスが「カァ~」と鳴くことかてあるわけで、だからというてカラスに対して「カァカァうるさいよ!」なんて言うてもしゃあないでしょ。
でもね、カラスに対して文句を言わないんは、何もカラスが言葉がわからないからやなくて、植物や動物といった自然のなかのもんが発する音は気にならんからです。
樹木がなびく音や葉っぱが舞う音、カエルのゲロゲ~ロもそうですけど、そういうんは割と大きな音でも気にならない。気になるとしたら人工物の音です。
「さあこれから」と打とうとするときに、突然、グローブのマジックテープをジャーッと剥がされたり、キャディさんがクラブをカチャカチャ鳴らしたり、これは気がそがれるいうか、気になります。だから、試合で経験が浅くてそういうことがわからないキャディの場合は選手のほうが気を使います。
そう考えると、ゴルフの場合における「集中する」いうんは、周囲の喧騒が聞こえなくなるということではなく、周りがよく見えておる状態であるいうことです。
周囲の状況が把握できていれば、普段出ているようなささやきや足音に対して過敏に反応せず、自分がやることに専念できてる状態が、集中するということなんやないでしょうか。
「周りがよく見えておる状態こそ『集中する』ということです」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2023年10月17日号より