Myゴルフダイジェスト

【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.113 「情報を揃えても本番では役に立たない」

高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。

PHOTO/Tsukasa Kobayashi

前回のお話はこちら

2022年のPGAのトーナメントプレーヤーズのプロテスト合格者を対象とするセミナーが暮れに行われ、講師の一人として話をさせてもらいました。

僕が呼ばれた経緯は、日頃、飯田雅樹競技委員長に、「プリファードライが出たらクレーム出しますよ。プロゴルファーがボール拾って移動させるとこ見られるなんてみっともない」いう話をしていたら、そういう話を新人のセミナーで話してくれと言われ、引き受けたんです。

※プリファードライ……悪天候などで地面の状態が悪いときに、球を無罰で拾い上げて拭き、状態のいい場所にプレースして打てるというローカルルール。

前の晩は3時くらいまでかけて、先輩プロからの助言的なものをメモに書き出して用意しておきました。


当日、「今後君らはPGAの看板を背負っていくわけやから、お客さんと回ったときに話せるように700年前のゴルフの発祥の歴史くらいは知っておかないかん」とか、「プリファードライはUSGA寄りの解釈で、あれはゴルフの原点ではないんやから、あるがままに打たないかん」いう話をしたんです。

でも、どうも聞いている子らの目が光っておらん。明らかに眠そうやったんです。

それで後半は質疑応答の時間にすると、ある子が「どうしたら勝てるんですか」と聞いてきて、それを境に全員の目つきが変わったんですわ。

その流れで、「勝てる方法は知らん。せやけど昨今はデータや情報に頼るけど結果的にそれは自分の感覚のゴルフが失われることになる。情報集めはスロープレーにつながるのでサッサと回らんといかん」いう話をしたんです。

そうしたら一人が「どうしたらプレーが早くなりますか」と聞いてきたので、「それは非常にええ質問や。構えたときに、あれこれ考えてると体が動かんようになって遅くなるから、チェック項目は少ないほど早くなる。それになんぼ情報を用意しても、よいコンディションの日なんて3分の1もない。

大抵は風か雨か暑いか寒いかやから、バケツにクラブヘッド突っ込んでボールに泥つけて、頭から水かぶって練習をしたほうがええ」いう話をすると、用意した話にはまったく興味を示さなかった子らが、質問にアドリブで答えたんには明らかに食いついてきよった。

いくら情報をそろえても本番で役に立たんいうことを、僕自身が身に染みてわからせてもらったようなもんでした。

「新人プロたちに教えたことが、自分の身に染みたんです」

奥田靖己

おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する

週刊ゴルフダイジェスト2023年1月24日号より